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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)277号 判決 1999年4月15日

原告

A

外一一名

右原告ら訴訟代理人弁護士

竹澤哲夫

上条貞夫

岡村親宜

佐伯仁

井上幸夫

羽倉佐知子

被告

国立療養所愛媛病院長

阿久津弘

外一二名

被告ら指定代理人

榎本多喜男

外一名

被告国立療養所愛媛病院長、同国立小児病院長、同国立療養所道川病院長、

同関東信越地方医務局長、同国立療養所再春荘病院長、同近畿地方医務局長、

同国立療養所南岡山病院長、同国立札幌病院長、同国立精神・神経センター総長、

同国立療養所南福岡病院長、同九州地方医務局長及び同国立療養所西多賀病院長訴訟代理人弁護士

齊藤健

島村芳見

竹内康尋

高田敏明

大森勇一

右被告国立療養所愛媛病院長外一一名指定代理人

平野信博

外八名

被告国立療養所南福岡病院長及び同九州地方医務局長指定代理人

吉川宏

被告国立療養所南福岡病院長指定代理人

伊東一成

被告九州地方医務局長指定代理人

真野明徳

被告国立療養所西多賀病院長指定代理人

堀村和弘

外一名

被告人事院指定代理人

遠藤宣男

外四名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  別表の番号1から12までの各原告に対し、その番号の「被告(処分者)」欄記載の各被告が平成四年三月一九日付けでした各懲戒戒告処分は、いずれも取り消す。

二  被告人事院が各原告に対して平成六年五月二五日付けでした審査請求棄却の各判定(原告Jにつき人事院指令一三―一四、原告Kにつき同一三―一五、原告Lにつき原告一三―一六、右原告ら三名を除くその余の原告らにつき同一三―一三)は、いずれも取り消す。

第二  事案の概要

原告らは、平成三年一一月当時、いずれも国立病院又は国立療養所の看護婦又は職員であり、全日本国立医療労働組合(以下「全医労」という。)の副委員長、中央執行委員等の役職にあった者であるが、国立病院及び国立療養所に勤務する看護婦等の夜間勤務規則等に関する行政措置の要求に対し、人事院(被告人事院については単に「人事院」ということがある。)が昭和四〇年にした判定において、月間平均夜勤日数を約八日とし、一人夜勤を計画的に廃止するとの判断が示されたのに、それから二六年経過してもまだ右水準が達成されていないとして、全医労が看護婦増員五〇〇〇人の早期実現等の要求を掲げて勤務時間に最大で二七分間食い込む職場大会を実施した際、原告らは、これに他の職員を参加させ、もって争議行為を企て、共謀し、そそのかし若しくはあおり、国家公務員法(以下「国公法」という。)九八条二項に違反した等としていずれも懲戒戒告処分を受け、それを不服とする審査請求も棄却されたため、同条項が憲法二八条に違反し無効であること、仮に合憲であったとしても限定解釈すべきであり、原告らの行為は同条項に該当しないこと、同条項は結社の自由及び団結権の保護に関する条約(昭和四〇年条約第七号。以下「ILO八七号条約」という。)、団結権及び団体交渉権についての原則に関する条約(昭和二九年条約第二〇号。以下「ILO九八号条約」という。)並びに社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第六号。以下「国際人権A規約」という。)に違反し無効であること、仮に国公法九八条二項が合憲であったとしても、右職場大会は公務員の争議権を一律に禁止したことの代償措置として置かれた行政措置要求制度に基づく前記判定の実施を求めたものであり、この職場大会への参加を呼び掛けた原告らの行為が同条項に違反するとして懲戒戒告処分をしたことは違憲であること並びに右懲戒戒告処分は懲戒権を濫用するもので無効であること、以上を理由に、右各懲戒戒告処分が違法であると主張してその取消しを求め、併せて前記審査請求を棄却した各裁決が判断遺脱等を理由に違法であると主張してその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠に基づき認定した事実を含む。争いのない事実については特にその旨は断らないが、認定の根拠を示すため各項末尾の括弧内に証拠を掲げる。)

1  当事者等

(一) 全医労

全医労は、厚生省所管の国営医療機関に勤務する者などで組織され(平成、三年一一月当時の組合員数は約四六〇〇〇名)、構成員の労働条件の維持改善と経済的、社会的及び政治的地位の向上を目的として、国立病院、国立療養所及び国立高度医療センター(以下「国立病院等」という。)にそれぞれ支部をおく、国公法一〇八条の三により登録された職員団体である。

(二) 原告らの職歴、組合活動歴、職場大会当時の職務内容及び組合内の立場

原告らの職歴と組合役員歴はそれぞれ次のとおりである。

(1) 原告A

ア 職歴

原告Aは、昭和三五年四月一日国立愛媛療養所(国立愛媛療養所は昭和四九年四月一日その名称を国立療養所愛媛病院に変更した。)雇(看護助手)に採用され、昭和三五年五月一日同療養所准看護婦に配置換えされ、昭和三八年四月一日厚生技官に任官し、平成元年八月一日から平成六年七月三一日まで国家公務員法一〇八条の六第一項ただし書による専従許可(以下「専従許可」という。)を受け、同年八月一日職務復帰したが、同年九月一五日辞職した。

イ 組合役員歴

同人は、平成元年八月一日から平成六年七月三一日まで全医労副委員長であった。

(2) 原告B

ア 職歴

原告Bは、昭和五〇年四月一日国立小児病院厚生技官(看護助手)に採用され、同月三〇日同病院看護婦に配置換えされ、昭和六三年四月一日から平成四年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、昭和六三年四月一日から平成四年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(3) 原告C

ア 職歴

原告Cは、昭和五九年六月一六日国立療養所道川病院厚生技官(看護助手)に採用され、昭和六一年五月一日同病院ボイラー技士に配置換えされ、昭和六三年八月一日から平成四年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、昭和六三年八月一日から平成四年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(4) 原告D

ア 職歴

原告Dは、昭和三八年三月一日国立内野療養所雇員(調度係)に採用され、同年四月一日厚生事務官に任官し、昭和三九年一〇月一日国立東京第二病院に、昭和四七年九月一日国立寺泊療養所に、昭和五三年五月一六日国立療養所西新潟病院に、それぞれ転任し、昭和六〇年八月一日から昭和六一年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰し、昭和六二年一〇月五日同病院医事係長に昇任し、平成二年八月一日から平成四年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、昭和六〇年八月一日から昭和六一年七月三一日まで全医労執行委員であり、平成二年八月一日から平成四年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(5) 原告E

ア 職歴

原告Eは、昭和四九年三月二五日国立療養所再春荘(なお、国立療養所再春荘は昭和五九年四月一一日その名称を国立療養所再春荘病院に変更した。)厚生技官(准看護婦)に採用され、昭和四九年五月一〇日同療養所看護婦に配置換えされ、平成二年八月一日から平成五年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、平成二年八月一日から平成五年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(6) 原告F

ア 職歴

原告Fは、昭和五二年四月一日国立京都病院厚生事務官(外来係)に採用され、昭和五八年四月一日国立八日市病院補給管理係長に昇任し、平成二年八月一日から専従許可を受けている。

イ 組合役員歴

同人は、平成二年八月一日から全医労中央執行委員である。

(7) 原告G

ア 職歴

原告Gは、昭和六二年四月一日国立療養所南岡山病院厚生技官(看護婦)に採用され、平成二年八月一日から平成六年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、平成二年八月一日から平成六年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(8) 原告H

ア 職歴

原告Hは、昭和五八年七月一日国立札幌病院厚生技官(看護婦)に採用され、平成三年八月一日から平成六年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、平成三年八月一日から平成六年七月三一日まで全医労中央執行委員であった。

(9) 原告I

ア 職歴

原告Iは、昭和五七年四月一日国立国府台病院(なお、国立国府台病院は昭和六二年四月一日国立精神・神経センター国府台病院に組織変更した。)厚生技官(准看護士)に採用され、同年五月一日同病院看護士に配置換えされ、平成三年八月一日から平成六年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰した。

イ 組合役員歴

同人は、平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで全医労中央闘争委員であり、同年八月一日から平成五年七月三一日まで全医労執行委員であり、同年八月一日から平成六年七月三一日まで全医労中央闘争委員であった。

(10) 原告J

ア 職歴

原告Jは、昭和四八年七月一六日国立中津病院厚生技官(看護婦)に採用され、昭和五〇年七月一日国立療養所南福岡病院に転任した。

イ 組合役員歴

同人は昭和五三年七月一日から昭和五七年一〇月一五日まで全医労南福岡支部執行委員であり、昭和五九年一〇月一六日から昭和六一年一〇月二四日まで同支部執行委員であり、昭和六二年九月二六日から昭和六三年一〇月三一日まで同支部婦人部長であり、同年一一月一日から平成六年一一月二八日まで同支部支部長であった。

(11) 原告K

ア 職歴

原告Kは、昭和五二年四月一日国立療養所宮古南静園厚生技官(衛生検査技師)に採用され、昭和五六年一〇月一六日同園臨床検査技師に配置換えされ、昭和五九年五月一六日同園細菌血清主任技師に昇任し、昭和六〇年八月一日から昭和六三年七月三一日まで専従許可を受け、同年八月一日職務復帰し、平成二年四月一日国立療養所沖縄病院生理学主任技師に配置換えされた。

イ 組合役員歴

同人は、昭和五六年五月一五日から昭和六〇年七月二八日まで全医労宮古南静園支部支部長であり、同年八月一日から昭和六三年七月三一日まで全医労中央執行委員であり、同年一〇月二七日から平成元年一〇月三〇日まで全医労宮古南静園支部書記長であり、同年一〇月三一日から平成二年三月三一日まで同支部支部長であり、同年一〇月一日から平成四年一〇月三一日まで全医労沖縄病院支部支部長であり、同年一一月一日から平成六年一一月二八日まで同支部書記長であった。

(12) 原告L

ア 職歴

原告Lは、昭和四六年四月一日国立療養所西多賀病院厚生技官(保母)に採用された。

イ 組合役員歴

同人は、昭和五三年一〇月一日全医労西多賀支部執行委員となり、昭和五八年九月一七日同支部副部長となり、昭和五九年九月二八日同支部書記次長となり、昭和六〇年九月三〇日から昭和六一年一〇月七日まで同支部書記長であり、昭和六二年九月一七日同支部書記次長となり、平成元年一〇月七日同支部書記長となり、平成二年九月二八日から同支部支部長である。

(三) 被告らについて

(1) 被告国立療養所愛媛病院長、同国立小児病院長、同国立療養所道川病院長、同関東信越地方医務局長、同国立療養所再春荘病院長、同近畿地方医務局長、同国立療養所南岡山病院長、同国立札幌病院長、同国立精神・神経センター総長、同国立療養所南福岡病院長、同九州地方医務局長及び同国立療養所西多賀病院長(以下、これらの被告を総称して「被告処分者ら」という。)は、別表の右各被告に対応する各原告に対する懲戒権者である。

(2) 被告人事院は、後記(第二、一、2、(三))の判定を行ったものであり、原告らの後記(第二、一、7)の審査請求に対して裁決を行ったものである。

2  行政措置要求及び人事院の判定

(一) 行政措置要求

全医労委員長岩崎清作は昭和三八年四月一九日付けで国公法八六条に基づき人事院に対して「看護婦、准看護婦及び助産婦の夜間勤務規則等に関する行政措置の要求」と題する書面により勤務条件に関する行政措置の要求をした(以下「本件要求」という。)。

本件要求の内容は、看護婦、准看護婦及び助産婦(以下「看護婦等」という。)が行う夜勤勤務について、第一に、夜勤日数(准夜勤及び深夜勤の日数)を一箇月に六日以内とすること、第二に、一看護単位の定床を四〇床以下とし、これに二名以上の夜勤者を配置すること、第三に、産後一年間夜勤を禁止すること、第四に、休暇、休息時間を職員個々に明示すること、かつ、これらの事項を人事院規則で規制すること、であった。

(二) 人事院の調査

人事院は、昭和三八年一〇月、国立東京第一病院外一〇の国立病院及び国立中野療養所外一六の国立療養所の合計二八の施設について調査を行い、次のような調査結果を得た。

(1) 本件要求の第一に係る夜勤日数については、いわゆる準夜勤と深夜勤を併せて夜勤と見た場合、調査対象の医療機関の夜勤に従事することを常例とする看護婦等二〇九六人の一箇月の夜勤日数は、六日から一六日までばらつきがあるものの、それを平均すると、国立病院において9.1日、国立療養所においては9.8日、両者を併せた平均値は9.4日であった。そして、看護婦等の日勤にはいわゆる早出勤務及び遅出勤務などがあるが、これらの勤務については勤務開始時間が早かったり勤務終了が遅かったりするためで、その通勤が必ずしも容易ではないこと、準夜勤と深夜勤については、その勤務の交替時間が深夜であるので交通機関の運行状況の関係から勤務は更に困難が伴うこと、深夜勤を終えた看護婦等は十分な睡眠が取れない場合が多いこと、夜勤者が利用する休憩室、仮眠室の設備については全般的に見て良好とはいえず、中にはそれが全く存在しない施設もあること、夜勤の間に食事を取ることが困難な状況にあること、夜勤における業務は総じて多忙であること、多くの看護婦は夜勤日数を一箇月に六日以内とすることを希望しており、夜勤による心身の疲労が著しいので、連続する各夜勤の間に疲労が十分に回復するに足る日数を置くべきである旨訴える者があり、また、家庭を持つ看護婦等にあっては夫婦のすれ違い、子女の養育の困難等種々の支障から退職を余儀なくされる状況にあるがそのような状況をなくすために夜勤日数は無制限に放置されるべきではないことを強調する者があること等が認められた。

(2) 本件要求の第二に係る一看護単位の定床数と夜勤者の複数配置については、調査対象である国立病院の一二三看護単位の一看護単位当たりの平均収容患者実数は47.3人で定床数は51.5床、国立療養所の一二九看護単位の一看護単位当たりの平均収容患者実数は五六人で定床数は63.9床、全施設を平均すると平均収容患者実数は51.7人、定床数は57.9床であった。また、全勤務箇所に対するいわゆる一人夜勤(一看護単位の夜勤の勤務者数が一人であること)箇所の割合は、国立病院で76.2パーセント、国立療養所で65.3パーセント、全施設を平均すると七一パーセントであった。さらに、夜勤の実情として、病室の巡回、各種の処置、書類の整理、患者からの随時の呼出し等により休憩・休息が計画的に取れないこと、患者の容態の急変等の突発事態は発生した場合や同時に患者から呼出しがかかった場合の処置、連絡等が極めて困難であること、看護婦等は一人夜勤に不安・恐怖を感じており、それが精神的負担となっていること、施設側は看護婦等の人員数が十分であれば一人夜勤はできるだけ解消したいとの意向を示し、おおかたの看護婦は、一看護単位当たりの患者数、定床数については夜勤日数や一人夜勤の問題に比べればさしたる関心を示していないこと等が認められた。

(3) 本件要求の第三に係る産後一年間の夜勤の禁止については、産後六箇月又は八箇月を経過するまでの間夜勤を免除するようにしている施設が国立病院及び国立療養所に各一施設あり、産後の出勤再開後三箇月又は二、三週間経過するまでの間夜勤を免除するようにしている施設が国立病院及び国立療養所を通じて八箇所あった外は、特に産後の夜勤を一律に免除するという形で配慮されてはいないが、いずれの施設においても、看護婦等の産後の健康状態が不良と診断された者や育児の必要があると認められる者については、それぞれ個別に夜勤を免除若しくは軽減し、又は夜勤のない勤務場所へ配置換えするなどの措置が執られていた。産後の出勤再開後に夜勤に従事することによるその者の体調に対する影響には個人差があり、その影響の度合いは必ずしも明らかではないこと、看護婦等の夜勤の育児に対する影響については、それが家族に対する負担となり家庭生活全般に支障となって現れ、また、乳児は一般に夜間風邪を引きやすい等の事情から乳児の発育不全の原因となるおそれがあることを述べる看護婦等があること、多くの施設当局は、看護婦等一人当たりの一月の夜勤日数が相当多い点と家庭を持つ看護婦等が増えている点からして、産後の看護婦等に対して一律に長期間の夜勤免除の措置を採ることは、他の一般の看護婦の負担を増大させる結果となり、現状にそぐわないことを述べていること等が認められた。

(4) 本件要求の第四に係る休暇、休息時間の明示については、看護婦等の休憩、休息時間に関する規定を制定している施設はほとんどなく、夜勤時の休憩休息時間を勤務のどの時間帯に置いているか明らかにしていない施設が大半であった。昼間の勤務時間については、おおむね正午から午後二時ころまでの間に三〇分ないし一時間程度の休憩、休息をとり、この時間を昼食の時間に当てているが、夜間の勤務時間はこれと著しく事情が異なった。すなわち、準夜勤の勤務時間については、一般に午後四時又は午後四時半から勤務が始まるが、勤務開始後通常八時又は八時半ころまでは、日勤者からの申し送り、患者の食事の世話、注射、投薬、検温、検脈等様々な勤務を行う必要があって多忙であり、その間、休憩、休息時間を見いだすことは困難であり、看護婦等の食事は交替で一〇分ないし一五分間でとっている現状であった。消灯後も、病室の見回り、食間投薬等の処置、器材・器具の整備、記録・伝票類の整理等の仕事があって、勤務が終了する午前〇時半又は午前一時ころまでの間において休憩、休息の時間を満足に持ち得ない病棟が大半であった。また、深夜勤の勤務時間については、勤務者は、午前〇時又は午前〇時半に出勤して準夜勤者から引継ぎを受けるが、準夜勤に比べれば、多くの患者は就寝中であるので、概して軽傷の患者のみを収容する病棟では時間的に余裕があるものの、手術後の患者に対する看護を行う者、産婦人科を含む産科又は小児科に勤務する者は、患者が就寝中の時間帯も病室の巡回、投薬、検温、尿の測定等の措置、記録の整理、患者からの呼び出し等で多忙であり、患者の起床時である午前六時以後、深夜勤の勤務が終了するまでの時間、夜勤中最も多忙であり、看護婦等は朝食をとれない状況であった。さらに、夜間においては看護婦等のみの勤務となり、しかも現状では大部分が一人夜勤であることから、夜勤者が病棟を離れて休憩することはできず、夜勤者が二名以上である場合でも、それぞれの担当業務との関係で実際上一人夜勤と同様病棟を離れることはできない勤務もあること、夜勤の看護婦等の行う業務には、記録室・処置室等の清掃、たんつぼの取替え、便器の掃除等、本来の看護婦の業務とはみなされないような用務もあること、施設の中には夜勤の間は休憩時間も休まず勤務に服しているものとして休憩時間相当分の勤務手当を支給し、又は夜間のみ休憩時間を置かず、拘束八時間の勤務を実施している施設もあること、夜間の休憩、休息時間が明示されたとしても一人夜勤の病棟においては何らその意味はなく、夜勤の勤務者が二人以上いる場合においても、大多数の看護婦等は勤務環境その他の事情が現状のままである限り、単なる明示は無意味であり、何ら実益がない旨述べていること等が認められた。

(5) また、人事院は、国立大学医学部附属病院、公社現業庁所管病院、公立病院及び民間病院の合計二四施設についても調査を行った結果、月間平均夜勤日数は、国立大学医学部附属病院については10.6日、公社現業庁所管病院については13.1日、公立病院については8.8日、民間病院については9.6日であり、一看護単位当たりの患者実数は国立大学医学部附属病院については38.2人、公社現業庁所管病院については28.5人、公立病院については48.4人、民間病院については47.9人であり、全勤務箇所に対する一人夜勤箇所の割合は国立大学医学部附属病院については69.2パーセント、公社現業庁所管病院については二一パーセント、公立病院については85.9パーセント、民間病院については51.6パーセントであった。

(本項全部につき乙あ第一六号証、丙第五号証)

(三) 人事院の判定

人事院は昭和四〇年五月二四日付けで次のような内容の判定を行った(以下「昭和四〇年人事院判定」という。)。

(1) 本件要求の第一に係る一箇月の夜勤日数については、夜勤日数をいかにすべきかは、夜勤に従事する職員の他のあらゆる勤務条件、特に夜勤に従事する場合の勤務環境その他の諸条件との関連において総合的に判断されるべきものである。国立病院及び国立療養所における看護婦等の夜勤に従事する場合の勤務条件は満足すべきものではなく、現状における夜勤の実態を前提としては、現在の夜勤日数は適当であるとはいえない。まず、夜勤に直接関連する諸条件を中心にその改善を行うことによって夜勤による看護婦等の負担を軽減することが適切な措置であり、具体的には、次の措置を講ずる必要がある。

ア 看護婦等の行うべき業務の範囲、特に夜勤時における範囲を明確にして、夜勤業務を整理すること

イ 夜勤業務の遂行を容易ならしめるための器材、器具等の導入を考えること

ウ 休憩室、仮眠室その他の設備を改善、整備し、夜勤者の利用に供しうるよう措置すること

エ 夜勤時、特に一人夜勤における処置、連絡等を容易ならしめる方策を講じること

オ 夜勤交替時の通勤事情に即応する対策をたてること

カ 看護の補助業務を行う看護助手の充実をはかること

関係機関は、右各措置に併せて、夜勤日数についてもこれを現状より減少、緩和させる必要があり、その減少、緩和の程度としては、諸般の事情を考慮すれば、現段階においては約八日(年間の総日数から勤務を要しない日及び年次休暇二〇日分を控除した日数を一二で除し、これを看護婦等の月間平均勤務日数とみなし、その三分の一に当たる日数)をもって、国立病院及び国立療養所に勤務する看護婦等で夜勤に従事する者の月間平均夜勤日数とすることが、一応の目標として適当であると考えられる。この目標の夜勤日数については、直ちにこれを実施することが困難であるとすれば、計画的にその実現を図るべきである。

(2) 本件要求の第二に係る一看護単位の定床数と夜勤者の複数配置については、まず、一看護単位の定床数について、看護単位の患者数は、当該看護単位における医療の内容、看護婦等を中心とする看護力、患者の病種及び病状、病室その他の建物の構造等種々の要素によって決めるべきものであり、単に看護婦等の勤務条件の面のみから見てすべての看護単位における患者数を一律に規制することは適当でないが、関係機関としては、患者数が直ちに当該看護単位に勤務する看護婦等の勤務上の負担につながり、特に少数の勤務者によって行われる夜勤においては、看護力の限界がおのずからあるものと考えられることを十分考慮し、患者数に見合う看護力の充実ないしは勤務者の配置について必要な措置を講ずべきである。

次に、夜勤者の複数配置について、国立病院及び国立療養所にあっては、全勤務箇所の七一パーセントに及ぶ看護単位において一人夜勤が行われており、一人夜勤の状態をこのまま放置することは適当でないと認められるので、関係機関においては、一人夜勤を行うこととしている各看護単位の夜勤の実情について十分に調査の上、一人夜勤で足りると考えられる看護単位については、特に突発事態の発生等の万一の場合に備えて、その処置、連絡を容易ならしめるための措置を講じ、休息設備等についても特段の考慮を払う必要があり、その他の看護単位については、一挙に一人夜勤を廃止することは、看護婦等の膨大な増員を見ない限り、一方において一箇月の夜勤日数を増加させる等、別の面における問題を生ぜしめることとなり不適当と思料されるので、前記の措置、連絡を容易ならしめる措置を講ずるとともに、夜勤日数その他関連する事項に及ぼす影響についての考慮を併せ行った上で、計画的に一人夜勤の廃止に向かって努力すべきである。

(3) 本件要求の第三に係る産後一年間夜勤の禁止については、産後の看護婦等に対し、その出勤再開後相当の期間夜勤に就かしめないように措置することが必要であるが、このことは同一施設に勤務する他の看護婦等の勤務配置、夜勤日数等に直ちに影響するものであることを考慮し、おおむね産後六箇月程度を標準として、各施設ごとにその実情に応じた夜勤免除の措置を講ずることが適当である。

(4) 本件要求の第四に係る休暇、休息時間の明示については、まず、昼間における休憩、休息時間については、速やかにこれに関する規定を整備し、施設の職員にこれを明示すべきである。次に夜間勤務の休憩時間については、明示の実効性があると考えられる勤務箇所においては、休憩時間に関する規定を整備してこれを明示すべきであり、明示しても実効性のないことが明らかな勤務箇所についても、計画的に勤務体制を整備し、休憩時間を明示する措置を講ずべきである。また、休息時間については、看護婦等の勤務の性質上、休息時間を一律に明示してもその実効は期待できないので、各施設ごとに看護婦等の勤務の実情に応じて休息時間に相当する時間を勤務の間に適宜見いだし得るよう配慮すべきであり、特に夜勤において休憩時間を置かないこととした場合は、夜勤において行う必要度の低い仕事はこれを昼間に回すなど仕事の配分を工夫する等により、努めて実質的に休息のできる時間を見いだし得るよう措置することが必要であるとした。

(5) そして、本件要求の第一から第四までについて人事院規則をもって規制することについては、各要求事項について、改善すべき内容は判示したところであり、これらの要求は、勤務環境等夜勤に関する諸条件との間に密接な相互依存関係があり、今後におけるこれらの改善の推移に左右されるものであるので、現段階としては、それらを人事院規則をもって一義的に規制することは適当ではない。

((三)全部につき、乙あ第一六〇号証及び丙第五号証)

3  職場大会に至る経緯

(一) 第四五回定期大会における決定

全医労は、平成三年七月一一日から同月一三日まで、第四五回定期大会を開催し、国立医療機関の再編成「全体計画」の阻止、完全週休二日制の実現、全職種の大幅増員実現などの要求実現のための闘争を強化するため、平成三年も中央闘争委員会を設置すること、統一ストライキ課題は、「国立医療の再編『合理化』反対・完全週休二日制実現・大幅増員をはじめとする医療改善闘争」等とすること、ストライキ戦術の行使に当たっては、全組合員による批准投票を実施すること、統一闘争の戦術としては、全医労の要求と国民的要求を統合させながら展開し、時間内に食い込む職場大会(ストライキ)の実施に当たっては、徹底した職場議論と準備、意思統一の下、非番者も含めて圧倒的組合員の結集を図ること等を決定した。

そして、右決定に基づき、中央闘争委員八名(原告I外七名)が新たに選出され、原告A、同B、同C、同D、同E、同F、同G及び同Hは、全医労規約三八条、三九条により、中央闘争委員を兼務することとなった。

(二) 第九六回中央委員会における決定

全医労は、平成三年九月六日及び同月七日の両日にわたって、第九六回中央委員会を開催した。当時、日本医療労働組合連合会(以下「日本医労連」という。)は、①国立医療機関の統廃合・移譲反対、まともな医療を保障する診療報酬の即時改定、②看護婦賃金の大幅引き上げ、「複数・月六日以内」の夜勤制限、完全週休二日制の実施、年休・生休の完全取得など労働条件の抜本的改善と医療・看護を保障する看護婦確保法の制定、③全職種の大幅増員による時短・連休・医療確保を基本とする完全週休二日制の実施、労働条件の抜本的改善、④平成三年賃上げの早期確定、医療労働者の昇給・昇格の改善、年末一時金の大幅獲得、査定・減額・差別支給反対、⑤小選挙区制・政党法の制定反対、PKO参加などの憲法違反の自衛隊の海外派兵反対を統一課題としており、中央執行委員会はそれを踏まえて、「全医労は、日本医労連(日本医療労働組合連合会)が看護婦確保法の制定を求めて、一一月中旬に予定している統一ストライキに、統一時間内職場大会で参加する。」、「全医労は、日本医労連の統一課題に、①平成四年度看護婦増員抜本策の追求、②看護婦増員年次計画施設長確認の実行、③公的医療機関なみの人員配置要求、④完全週休二日制、公務一体の本格実施、⑤賃上げ改善部分の早期確定と支給、⑥賃金職員の定員化と処遇改善の独自要求を加えてストライキをたたかう。」、「支部・地区・地方協は、ストライキを含む緊急指示に対して即応できる体制を強化するため、中央執行委員会後、直ちに闘争委員会を設置する。」、「日本医労連の一一月中旬『看護婦中央行動』には、全医労の独自行動も配置し、全国動員で結集する。これと連動する『統一ストライキ』には統一時間内職場大会で積極的に参加する。統一ストライキ決行についての判断は中央闘争委員会で行う。」旨の「九一年秋期年末闘争方針」を提案し、中央委員会はこれを決定した。

(日本医労連の統一課題の内容については乙あ第三号証)

(三) 「九一年秋年末闘争方針」の確立と強化に関する指示

全医労中央闘争委員会委員長遠山亨は、平成三年九月一一日本付けで、全支部長、地区・地方協議会議長あてに、「今秋年末のたたかいでは日本医労連の看護婦闘争、とりわけ看護婦確保法の制定を求める課題に、全医労の独自課題を加えて時間内職場大会の戦術配置をもって結集し、要求前進をはかることが大きな特徴になっている。」とし、「各級組織はただちに闘争委員会を設置し、支部代表者会議、地区討論集会、職場大会などを短期間に積み上げ、闘争体制の確立とたたかいの指導強化をはかること。」、「日本医労連は、看護婦確保法を最重点に一一月一二日看護婦中央行動を、一一月一三日に統一ストライキを行う。全医労はこのたたかいの成功のため、看護婦中央行動には、全地区代表で参加し、統一ストライキには、早朝時間内職場大会で結集する。全組織は、この統一行動成功にむけ、体制確立をはかること。」、「ストライキ批准投票を一〇月七日から九日までの三日間全国一斉に実施すること。」を指示し、ストライキ批准投票は予定どおり実施され、全国二三三支部において、組合員三万七〇三一名が投票に参加した(前記指示をしたのが全医労中央闘争委員会の遠山委員長であることは乙あ第五号証)。

(四) 一一・一三早朝時間内職場大会の準備の指示

全医労中央闘争委員会委員長遠山亨は、平成三年一〇月一五日付けで、全支部長、地区・地方協議会議長あてに、「全支部は、一一月一三日、全組合員結集による早朝時間内職場大会実施のため準備を進めること。」を指示した(右指示をしたのが全医労中央闘争委員会の遠山委員長であることは乙あ第五号証、第六号証、弁論の全趣旨)。

(五) 一一・一三アピール

全医労本部は、平成三年一一月一一日、「全医労の方針とたたかいに確信をもって一三日の時間内職場大会を組合員最大結集で成功させよう。」とのアピールを記載したテレファックスニュースを傘下組織に送信した。

4  当局の警告

(一) 厚生省保健医療局管理課調査官吹野昭治及び同調査官松田功は、平成三年一一月五日、全医労本部の書記長村岡忠義、同書記次長渡辺伸仁に対し、全医労が同月一三日に予定している時間内職場大会につき中止を勧告し、同月八日に厚生本省から全医労本部に対し、各施設から全医労各支部に対し、それぞれ警告をする旨予告した。

(二) 厚生省保健医療局は、平成三年一一月八日、同局長名義の全医労委員長あての「全医労が一一月一三日に計画している時間内職場大会は違法なものである。もし違法な争議行為が行われたときは、関係法令に基づき厳正な措置をとらざるを得ないので、自重を強く要望する。」旨の警告書を用意した。前記調査官吹野昭治は、前記書記長村岡忠義に対し、右警告書を発出するから受取りに来てくれるよう電話連絡をしたところ、受取りを拒否されたので、右警告書を読み上げた上、郵送する旨伝え、同日、全医労本部あてに右警告書を配達証明・速達郵便で差し出したが、全医労はその受領を拒否した。また、国立病院、国立療養所等の二四二施設は、それぞれ施設の全医労支部に対し同様の警告を行った(厚生省保健医療局が前記警告書を用意したこと、全医労に前記警告書を配達証明・速達郵便で差し出したことは、乙あ第一一号証、第一二号証の一ないし三、第二七号証の一(九頁)及び二(八七頁から八九頁)。

5  職場大会の実施状況

全医労は、看護婦増員五〇〇〇人の早期実現、看護婦増員抜本対策の追求、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等の要求を掲げて、平成三年一一月一三日に全国の国立病院等の支部において、組合員約二万五〇〇〇名が参加して、勤務時間に約二九分以内食い込む方針で職場大会を開催し(以下「本件職場大会」という。)、そのうち、少なくとも二九三四名の職員は、当日勤務に就くべき義務を負っているにもかかわらず、最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱した(乙あ第二七号証の一及び二、第七四号証の一の一から同号証二の五まで)。

各支部における本件職場大会の実施状況は以下のとおりである。

(一) 全医労南福岡支部(以下「南福岡支部」という。)における争議行為の経緯

(1) 支部の時間内職場大会の計画

南福岡支部は、全医労中央闘争委員会の前記平成三年九月一一日付け「九一年秋期年末闘争の確立と強化に関する指示」を受けて、同年九月二六日、執行委員会を開催し、同年一一月一三日に時間内職場大会を実施すること、スト批准闘争を同年一〇月七日から同月九日までの間に行うことを取り決めた。

南福岡支部は、同月三日付け「スクラム」を発行して、時間内職場大会実施の体制確立のための批准投票を同月七日から同月九日までの三日間実施することを組合員に知らせ、「組合員全員もれなく投票して下さい!!ストライキ(時間内)」などの呼び掛けを行った。

南福岡支部は、同月七日から同月九日までの間、右批准投票を実施し、賛成の結果を得た。

南福岡支部は、同月二九日、執行委員会を開催し、同年一一月一三日に予定していた時間内職場大会の取組について協議し、職場大会を午前八時一五分から開始することを取り決めた。

南福岡支部は、同月五日、拡大闘争委員会を開催し(この拡大闘争委員会には原告Jが参加している。)、時間内職場大会について、時間帯は午前八時一五分から午前八時五九分まで(時間内二九分スト)とし、病棟・外来の申し送りは午前九時から行い、保安要員は支部長名で指名し、患者へのアピールを行い、当日休み(週休)の参加を呼び掛け、婦長集会は同月一一日に開催し、時間内職場大会当日の業務は午前九時から開始することなどを取り決めた。

南福岡支部は、同月一一日付け「スクラム」を発行して、組合員に対して、「一三日(水)「看護婦確保法」制定!の早朝時間内職大を成功させよう!」などの見出しの下に、「全医労も民間の仲間達に負けずに、早朝時間内職大をひらき、頑張ります。」、「全組合員の結集が必要です。」と記載して組合員に時間内職場大会への参加を呼び掛け、また、「各職場には、保安要員をおきます。」などと知らせた。

南福岡支部は、同月一二日、執行委員会を開催し(この執行委員会には原告Jが参加している。)、時間内職場大会の終了予定時刻を午前八時五九分とし、場所を職員昇降棟とすること、当日までの取組・外来患者に対するチラシ配布・ポスター・立て看板等の患者対策、「時間内職大とは」及び「ストの意義」についての教育(教宣)、同月一三日当日の任務分担、当日の進行等について討議し、決定した。

南福岡支部は、同月一二日付け「スクラム」を発行して、「看護婦確保法制定を求める一一・一三早期時間内職大を成功させよう。」との見出しの下に、「みんなの参加で一一・一三集会を成功させましょう。」、「集会を成功させるカギは、みんなの参加です。」などと記載して、組合員に時間内職場大会への参加を呼び掛けた。

(2) 当局の警告

南福岡病院の庶務課長貞松康夫は、平成三年一〇月一四日南福岡支部書記長倉地美智雄に対して時間内職場大会の中止等を申し入れ、同年一一月八日同書記長及び同書記次長稲川豊に対して時間内職場大会を中止するよう警告した。

南福岡病院においては、同病院長名義の南福岡支部支部長あての「貴支部は、来る一一月一三日に勤務時間内職場大会を計画している模様であるが、いうまでもなく、国家公務員は、いかなる場合においても争議行為を行うことは許されず、このような違法行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならないこととされている。当局は、貴支部が違法な争議行為を行った場合には、関係法令に基づき厳正な措置をとらざるを得ないので、違法行為が行われないよう貴支部の自重を強く要望する。」旨の警告書を用意し、同病院庶務課長貞松康夫が、同月一一日、南福岡病院応接室において、南福岡支部書記長倉地美智雄及び同書記次長稲川豊に右警告書を交付しようとしたが、両名が受領を拒否したので、警告書を読み上げて警告した(乙い第二号証、第三号証、第一〇号証、第一四号証(五頁、九頁))。

(3) 本件職場大会の実施

南福岡支部は、同月一三日午前八時一五分から午前八時五三分まで、南福岡病院職員昇降棟前において、本件職場大会を実施し、組合員二一三名が参加し、そのうち少なくとも九名が午前八時三〇分から午前八時五三分まで一斉にその職務を放棄し、もって勤務時間内に二三分以内食い込む職場大会を行った。

原告Jは、右職場大会の冒頭で挨拶をし、「集会の目的は看護婦確保法制定、週休二日制増員、賃金職員の全員定員化及び人勧・給与法である。」、「時間内に食い込む職場大会をやっているが、確信を持って最後まで集会に参加してほしい。」、「人事院制定後二六年経過した。定員削減はやるが夜勤改善は遅れている。看護婦は定年まで働けないような厳しい状況である。病棟の保安体制は万全であるので最後まで集会に参加してほしい。」旨の演説をし、また、自らも勤務を離れ本件職場大会に参加した(乙い第一号証、第九号証、第一〇号証、第一三号証(一〇頁から一二頁)、第一七号証(一八頁から二〇頁))。

(二) 全医労沖縄病院支部(以下「沖縄病院支部」という。)における争議行為の経緯

(1) 支部の時間内職場大会の計画

沖縄病院支部は、全医労中央闘争委員会の前記平成三年九月一一日付け「九一年秋期年末闘争の確立と強化に関する指示」を受けて、同年一〇月七日から同月九日までの三日間、沖縄病院支部の時間内職場大会の批准投票を実施し、賛成の結果を得た。

沖縄病院支部は、同年一一月七日、執行委員会を開催し(この執行委員会には原告Kが参加している。)、時間内職場大会の実施に向けて討議し、同職場大会の開催時間は午前八時から開始して午前八時五九分までには終了すること、開催場所は通常職場大会を行っている沖縄病院玄関前とすることを確認するとともに、保安要員として深夜勤務者、日勤リーダー、早出勤務者(給食、ボイラー、看護助手)を残すことを決定した。

沖縄病院支部は、同月八日、同日付け「にいぬふぁ星」を発行し、これに「統一ストライキ決行」、「全医労は、医労連の行動に連動し、『看護婦確保法』制定に向けて一一月一三日午前八時から八時五九分、約一時間のストライキを決行します。組合員は、もれなく参加して下さい」と記載して、組合員らに時間内職場大会への参加を呼び掛けた。

沖縄病院支部は、同月一一日、執行委員会を開催し(この執行委員会には原告Kが参加している。)、全医労本部の実施指令に基づき、時間内職場大会を実施する旨の同月七日の支部執行委員会の決定を確認した。

沖縄病院支部は、同月一二日には、全医労本部の実施指令を受けて、「明日(一三日)全国統一時間内職場大会を沖縄病院玄関前において午前八時から八時五九分まで行う。」旨、また、それは、「医労連の行動に連動し、『看護婦確保法』『全職種の大幅増員』『完全週休二日制』『賃金職員の定員化と処遇改善』等の要求前進のため、実施するものである。」旨、「”国立医療を守り生活をまもる”全医労の方針とたたかいに確信をもって明日の時間内職場大会にのぞみ、組合員最大結集で成功させましょう。」旨及び「なお、保安要員として深夜勤務者、日勤リーダー、早出勤務者(給食、ボイラー、看護助手)をのこし、各病棟、職場は協力して参加してください」との各記載のあるビラを作成し、これを組合員らに配付して、時間内職場大会への参加を呼び掛けた。

沖縄病院支部は、同日、翌日(同月一三日、時間内職場大会当日)に配付するため「今日(一三日)、全国統一時間内職場大会を沖縄病院玄関前において午前八時から八時五九分まで行う。」旨及び「保安要員として深夜勤務者、日勤リーダー、早出勤務者(給食、ボイラー、看護助手)をのこし、各病棟、職場は協力して参加してください。」と記載した外、「今、法案準備中の看護婦確保法の予測される積極面は、給与改善、月八日以内夜勤、週休二日制の早期実現、看護制度一本化、院内保育所整備、潜在看護婦復帰などであり、看護婦確保法を制定して、看護婦の大幅増員、夜勤の複数・月六日以内、完全週休二日制、大幅賃上げ、養成の抜本的充実などをただちに実現することが必要である」旨の医労連の要求を記載したビラを作成し、これを、同月一三日、時間内職場大会の開始前に、組合員に配付し、時間内職場大会への参加を呼び掛けた。

(2) 当局の警告

沖縄病院長大城盛夫は、同月八日夕刻から深夜にわたって行われた沖縄病院支部との交渉の終了後である同月九日午前三時すぎころ、病院管理棟応接室において、沖縄病院支部の支部長である原告Kに対して、「貴支部が来る一一月一三日に計画している勤務時間内職場大会は違法な争議行為であり、もしこれを行えば厳正な措置を取らざるを得ないので、これを行わないよう貴支部の自重を強く要望する。」旨の記載のある警告書を交付し、時間内職場大会を中止するよう警告した(乙う第四号証、第一〇号証、第一三号証、(八頁から一〇頁))。

(3) 本件職場大会の実施

沖縄病院支部は同月一三日午前八時一五分ころから午前八時四五分ころまで沖縄病院玄関前において本件職場大会を実施し、組合員のうち少なくとも六〇名が参加し、そのうち少なくとも四名が午前八時三〇分から午前八時四五分まで一斉にその職務を放棄し、もって、勤務時間内に一五分間食い込む職場大会を行った。

原告Kは本件職場大会において、本件職場大会が看護婦確保法制定を求める全国統一集会に参加する趣旨のものであるなどと演説を行い、自らも勤務を離れ本件職場大会に参加した(甲う第一三号証並びに第一四号証の各一及び二、第一五号証の一ないし三、乙う第五号証、第六号証、第一〇号証、第一三号証(一一頁から一六頁)、第二一号証(一四頁から一八頁))。

(三) 全医労西多賀支部(以下「西多賀支部」という。)における争議行為の経緯

(1) 支部の時間内職場大会の計画

西多賀支部は、全医労中央闘争委員会の前記平成三年九月一一日付け「九一年秋期年末闘争の確立と強化に関する指示」を受けて、同年一一月一三日に時間内職場大会を実施すること、スト批准闘争を同年一〇月七日から同月九日までの間に行うことを取り決めた。

西多賀支部は、同月七日から同月九日までの間、右批准投票を実施し、賛成の結果を得た。

西多賀支部は、同年一一月八日あるいはその数日前に執行委員会を開催し、職場大会を同年一一月一三日午前八時から午前八時五〇分まで、外来玄関前で実施することを決定した。

西多賀支部は、同月八日、西多賀病院中央廊下の組合掲示板に、「時間内職場大会(8.00〜8.50)一一・一三(水)―外来玄関前、月の三分の一は夜勤・健康破壊・過労死があとをたちません。看護婦不足は今や深刻な社会問題、このままでは医療、看護はメチャメチャ。看護婦の大幅増員・夜勤の複数六日・賃上げ・賃金職員の定員化等私達は今、声を大にしましょう。もうがまんできません。多くの参加で看護婦確保法を制定させましょう!」との掲示をした。

(2) 当局の警告

西多賀病院は、同病院長名義の西多賀支部支部長あての「貴支部は一一月一三日に勤務時間内職場大会を計画している模様であるが、国家公務員はいかなる場合においても争議行為を行うことは許されず、このような違法行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし若しくはあおってはならないこととされている。当局は、貴支部が違法な争議行為を行った場合には、厳正な措置をとらざるを得ないので、違法行為が行われないよう貴支部の自重を強く要望する。」旨の警告書を用意して、西多賀病院庶務課長高柳武正及び会計課長菊地昭博の両名が、同月八日、西多賀病院中央材料室において、西多賀支部副支部長遊佐好二に同警告書を交付しようとしたが、同人は右警告書の受領を拒否した。

西多賀病院は、同月一二日、同病院長名義の職員あての「全医労西多賀支部の時間内職場大会について」と題する書面において、「伝えられるところによれば、全医労西多賀支部は来る一一月一三日早朝時間内職場大会を計画している模様であります。すでに承知のとおり、勤務時間内職場大会は国家公務員法で禁止された争議行為でありますから、このような違法行為には、絶対に参加しないようにして下さい。もしこれに参加した場合には、関係法令に照らし、必要な措置をとらざるをえないので、皆さんの良識ある行動を望んでやみません。」と記載し、この書面を、西多賀病院内の四か所の掲示板に掲出して、職員に対し、違法な時間内職場大会への参加を辞めるよう警告を発した(乙え第四号証、第一〇号証、(二頁、三頁)、第一八号証(一一頁から一三頁、一六頁、一七頁))。

(3) 本件職場大会の実施

西多賀支部は、同月一三日午前八時一五分から午前八時四九分まで、西多賀病院外来玄関前において、本件職場大会を実施し、組合員約六四名が参加し、そのうち少なくとも四九名が午前八時三〇分から午前八時四九分ないし五三分まで一斉にその職務を放棄し、もって勤務時間内に一九分ないし二三分食い込む職場大会を行った。

原告Lは、本件職場大会の冒頭に、一一年ぶりに時間内職場大会を実施することになった経緯等について述べるなど参加者へのあいさつをし、同日午前八時三〇分には、西多賀支部副支部長遊佐好二のストライキ突入宣言に引き続いて、西多賀病院当局との団体交渉の経過報告を行い、本件職場大会参加者に対し、「頑張ってやっていきましょう。」などと演説し、また、自らも勤務を離れ本件職場大会に参加した。

西多賀病院の事務部長佐々木勝信は大会参加者に対し、勤務時間前の同日午前八時一八分及び一九分に、構内の無許可使用を理由に解散命令を発し、勤務時間に入った午前八時三〇分、三一分及び三六分の三回にわたり、本件職場大会は時間内の職場大会で違法であるとの理由による解散命令及び就業命令を発したが、大会参加者らはこれを無視して本件職場大会を敢行した(乙え第七号証、第八号証、第一〇号証、(四頁から六頁)、第一六号証、第一七号証の一(三頁、四頁、八頁、九頁)、同号証の二(二頁、三頁、五頁、六頁、八頁)、第一八号証(一八頁から二三頁))。

6  原告らに対する本件各懲戒処分

被告処分者らは、いずれも平成四年三月一九日付けで、各原告らが国立病院等に勤務する職員を本件職場大会に参加させて同盟罷業等を行わせ、もって、争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおったものであり(原告J、原告K及び原告Lについては、自ら勤務を欠き、同盟罷業に参加したことも含む。)、国公法九八条二項に違反し、同法八二条一号に該当するとして、それぞれ前記各原告に対して懲戒戒告の処分(以下「本件各懲戒処分」という。)を行った。

7  審査請求

原告らは、本件各懲戒処分につき、それぞれ所定の期間内に被告人事院に審査請求を行ったが、被告人事院は、平成六年五月二五日付けで右審査請求をそれぞれ棄却する旨の裁決(原告A、原告B、原告C、原告D、原告E、原告F、原告G、原告H、原告I(これら原告九名を以下、「原告A外八名」という。)に係る不利益処分審査請求事案に関する判定については人事院指令平成六年一三―一三、原告Jに係る不利益処分審査請求事案に関する判定については人事院指令平成六年一三―一四、原告Kに係る不利益処分審査請求事案に関する判定については人事院指令平成六年一三―一五、原告Lに係る不利益処分審査請求事案に関する判定については人事院指令平成六年一三―一六)をし(以下、これらの裁決を「本件各裁決」という。)、原告らはそれぞれそのころ本件各裁決に係る裁決書の謄本の送付を受けた。

二  争点

(本件各懲戒処分の違法)

1 国公法九八条二項と憲法二八条

国公法九八条二項は憲法二八条に違反するか否か。

2 国公法九八条二項の限定解釈と原告らの行為の同条項違反の有無

(一) 国公法九八条二項前段の禁止する争議行為は、①「争議行為が直ちに公務の停廃を来す公共性の強い公務に従事する国家公務員」の、②「争議行為による公務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのある長時間の争議行為」であって、③「他の手段による制限ではそのおそれを避けることができない争議行為」と解するべきか否か。

国公法九八条二項後段の禁止するあおり等の行為は、争議行為に通常随伴して行われる行為以外の行為であおる等の行為と解するべきか否か。

(二) 本件職場大会は、争議行為が直ちに公務の停廃をきたすものではない国立病院又は国立療養所に勤務する国家公務員が行った争議行為であり、かつ、争議行為による公務の停廃が国民生活全体の利益を害することはなく、国民生活に重大な支障をもたらすおそれの全くない勤務時間内二九分以内の短時間の争議行為であり、実際にも業務に一切支障が生じず、しかも、民間の医療機関の場合と同様の争議行為の制限で国民生活の重大な支障を避けることができるものであって、国公法九八条二項前段の禁止する争議行為には当たらないというべきか否か。

原告らの行為は、争議行為に通常随伴して行われる行為であって、国公法九八条二項後段の禁止するあおり等の行為には当たらないというべきか否か。

3 国公法九八条二項と憲法二一条

本件職場大会の実施とこれに対する参加を訴えることを内容とする指令の発出、伝達、オルグ等は、憲法二一条によって保障される言論、表現活動にほかならず、これらの行為が国公法九八条二項に違反するとして懲戒処分の理由とすることは、憲法二一条に違反するといえるか否か。

4 国公法九八条二項はILO八七号条約、ILO九七号条約、国際人権A規約に違反し、憲法九八条二項に違反するか否か

5 国公法九八条二項違反を理由とする本件各懲戒処分と憲法二八条(適用違憲)

原告らの行為が国公法九八条二項に違反することを理由にされた本件各懲戒処分は、憲法二八条に違反するか否か。

(一) 本件職場大会の計画及び実施当時、勤務条件に関する行政措置要求制度は迅速公平にその本来の機能を果たしておらず、実際上画餅に等しいと見られる事態が生じていたか否か。

当局は誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くしたと認められるか否か。

(二) 本件職場大会は、右行政措置要求制度の正常な運用を要求すると認められる範囲を逸脱しない手段・態様のものであったか否か。

6 本件各懲戒処分が懲戒権を濫用したものとして無効となるか否か

(本件各裁決の違法)

7 本件各裁決は判断を遺脱したものか否か

8 本件各裁決が昭和四〇年人事院判定等について判断を誤ったか否か

第三  争点についての当事者の主張

一  国公法九八条二項と憲法二八条(争点1)について

1  原告らの主張

国公法九八条二項は憲法二八条で保障されている国家公務員の争議権を全面一律に禁止するものであり、憲法二八条に違反して無効である。

憲法二八条の「勤労者」は国家公務員も含むものであり、国家公務員に対しても同条によりいわゆる労働基本権が保障されている。国家公務員の労働基本権は、公務員の職務の性質・内容に応じて、国民生活全体の利益の保障という見地から、私企業の労働者の労働基本権と異なる内在的制約を受けるものと解すべきであるが、憲法二八条の趣旨に照らせば、労働基本権の制限が憲法二八条に違反するものではないというためには、その制限が合理性の認められる必要最小限度のものであること、職務の性質が公共性の強いものであり、その停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについてこれを避けるため必要やむを得ない場合に労働基本権を制限するものであること、制限違反に伴って生じる法律効果は必要な限度を超えないものであること及び労働基本権の制限に見合う代償措置が講じられていることを要するものと解するべきである。

しかし、国公法九八条二項は国家公務員の争議権を全面一律に禁止するもので合理性の認められる必要最小限度のものとはいえず、禁止違反に対しては国公法九八条三項で法令に基づいて保有する任命又は雇用上の権利を剥奪する旨の不利益と国公法一一〇条一七号で三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金が科されている。この制限に見合う代償措置としては当事者双方に拘束力を有する適切、公平、迅速な調停又は仲裁方法がなければならないと解するべきであるが、それも講じられていない。

したがって、国公法九八条二項は憲法二八条に違反し、無効であり、原告らの行為が国公法九八条二項に違反したとしてされた本件各懲戒処分は違法である。

2  被告処分者らの主張

国公法九八条二項が公務員の争議行為を禁止するのは、国民全体の共同利益の見地からするやむを得ない制約というべきであって、憲法二八条に違反するものではないと解するのが相当である。このことはいわゆる全農林警職法事件について最高裁判所大法廷判決(昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁。以下「全農林警職法事件判決」という。)が判示するところであり、国公法九八条二項は憲法二八条に違反しないので、原告らの行為が国公法九八条二項に違反したとしてされた本件各懲戒処分は適法である。

二  国公法九八条二項の限定解釈と原告らの行為の同条項違反の有無(争点2)について

1  原告らの主張

原告らは、前記のとおり、国公法九八条二項は憲法二八条に違反して無効であると主張するものであるが、仮に国公法九八条二項が直ちに憲法二八条に違反しないとするならば、憲法二八条の労働基本権保障の趣旨に照らし、国公法九八条二項を合理的に限定して解釈しなければならない。

すなわち、国家公務員の職務の公共性の程度は様々であり、争議行為が直ちにすべての公務の停廃を来し、国民生活全体の利益を侵害するとは限らない。また、争議行為は種々の態様のものがあり、短時間の同盟罷業又は怠業のような単純不作為の争議行為が直ちに公務の停廃を来し、国民生活全体の利益を侵害するとは限らない。そこで、憲法二八条が国家公務員に対しても労働基本権を保障することにより実現しようとしている法益と、国公法九八条二項が国家公務員の争議行為を禁止することにより保護しようとしている法益とを比較考量しつつそれらを合理的に調整するという見地から国公法九八条二項を解釈するべきである。

そうだとすると、国項法九八条二項前段の禁止する争議行為は、①「争議行為が直ちに公務の停廃を来す公共性の強い公務に従事する国家公務員」の、②「争議行為による公務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれのある長時間の争議行為」であって、③「他の手段による制限ではそのおそれを避けることができない争議行為」と解するべきであり、国公法九八条二項後段の禁止するあおり行為等は、右の違法性の強い争議行為を争議行為に通常随伴して行われる行為以外の行為で行ったあおる等の行為と解するべきである。

しかるに、本件職場大会は、国立病院又は国立療養所に勤務する国家公務員が行った争議行為であり、勤務時間内二九分の極めて短時間の争議行為であって、本件職場大会による公務の停廃が国民生活全体の利益を害することも国民生活に重大な支障をもたらすおそれも全くないものであり、実際にも業務に一切支障が生じず、民間の医療機関の場合と同様の争議行為の制限で国民生活の重大な支障を避けることができるものであるから、国公法九八条二項前段によって禁止されている争議行為に該当しないものである。また、本件各懲戒処分の対象となった原告らの行為は、すべて争議行為に通常随伴する程度のものであり、国公法九八条二項後段によって禁止されている行為に該当しないものである。

したがって、原告らの行為が国公法九八条二項前段及び後段に違反するとしてされた本件各懲戒処分は違法である。

2  被告処分者らの主張

争議行為又はあおり行為等の行為について限定解釈を施さなくても国公法九八条二項が憲法二八条に違反しないことは最高裁判所が全農林警職法事件判決において判示するところである。最高裁判所昭和四四年四月二日大法廷判決(刑集二三巻五号三〇五頁)は国公法九八条二項を憲法二八条との関係で合憲とするには争議行為についての限定解釈を施す必要がある旨判示したが、同判決は全農林警職法事件判決により変更されている。

また、原告は、本件職場大会が直ちに公務の停廃を来すものではないことを前提として、本件職場大会が国公法九八条二項で禁止されている争議行為に該当しないと主張するが、本件職場大会は、患者の生命及び健康を預かる国立病院等において病棟業務のための極めて重要な時間帯に実施され、その間日勤者が業務を行わなかったものであって、それが直ちに公務の停廃を来すことがないなどとはいえないものである。

以上により、原告らの行為が国公法九八条二項前段及び後段に違反するとしてされた本件各懲戒処分は適法である。

三  国公法九八条二項と憲法二一条(争点3)について

1  原告らの主張

憲法二一条は労働者の職場における言論及び表現活動の自由も保障している。

本件各懲戒処分の対象とされた原告らの行為は、通常の労働組合活動又はこれに随伴する指令の発出、伝達、オルグ等の行為であり、これらは憲法二一条によって保障される労働者の表現活動である。しかも、原告らの右行為の内容は保安要員を配置した上での極めて短時間の職場大会の実施とそれに対する参加を呼び掛けるものであり、暴力行為等を慫慂するものでも患者その他の公衆に迷惑をかけるものでもない。

したがって、これらの表現活動が国公法九八条二項に違反することを懲戒処分の理由とすることは憲法二一条に違反するから、本件各懲戒処分は違法である。

2  被告処分者らの主張

国公法九八条二項は、憲法二一条に違反しない。

憲法二一条の保障する表現の自由も公共の福祉に反する場合には合理的な制限を加えることができる。禁止された違法な争議行為をあおる等の行為をあえてすることは、それ自体がたとえ思想の表現たる一面を持つとしても、公共の利益のために勤務する公務員の重大な義務の懈怠を慫慂するものであり、結局、国民全体の共同利益に重大な障害をもたらすおそれがあるものであるから、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱するものである。したがって、これを制限する国公法九八条二項に違反したことを処分理由として行った本件各懲戒処分は適法である。

四  国公法九八条二項はILO八七号条約及びILO九八号条約並びに国際人権A規約に違反し、憲法九八条二項に違反するか否か(争点4)について

1  原告らの主張

(一) 憲法九八条二項は、我が国が締結した条約及び確立された国際法規の誠実な遵守を規定している。これは条約及び確立された国際法規を国内法よりも上位に位置づけたものと解すべきであり、また、国内的に直接適用の可能な条約及び確立された国際法規は別に同内容の国内法を制定することなく批准と同時に国内法上の拘束力が発生し、これに抵触する国内法は無効となると解すべきである。

我が国はILO八七号条約、ILO九八号条約及び国際人権A規約を批准しており、これらはいずれも国内に直接執行性のあるものである。

(二) ILO条約の有権的解釈の最終権限は国際司法裁判所にあるが、事実上、ILO条約勧告適用専門家委員会が有権的にその解釈を行っている。同委員会が昭和五八年及び平成六年に公表した解釈によれば、ILO八七号条約三条、八条、一〇条は争議権を保障しており、この争議権の保障は、公務員に及ぶが、内在的制約を受け、公的機関の代行者としてその資格で行為する公務員(国家の名において権限を行使する公務員)及び国民全体又はその一部の生命、個人的安全ないし健康に対してその中断が危険をもたらす不可欠業務に従事する公務員については、代償的保障が定められていることを条件に、争議行為を制限又は禁止することができる。したがって、公務員の争議権を制限又は禁止した場合においては、公務員の職業上の利益を擁護するために適切な代償措置が保障される必要がある。適切な代償措置であるためには、関係者があらゆる段階で参加でき、裁定が当事者双方を拘束する「適切、公平、迅速な調停仲裁手続」でなければならない。適切な代償措置が保障されていない争議行為の制限又は禁止は、ILO八七号条約違反として許されない。また、争議行為の禁止が結社の自由の諸原則に合致している場合にのみ争議行為に対する制裁を行うことができ、刑事罰の適用は違法行為の重大性によって正当化されるものでなければならない。

しかるに、国公法九八条二項は、全面一律に争議行為を禁止しており、また、その制限に見合う代償措置も完備しておらず、争議行為禁止に違反した者に対する制裁は無制限であって、違反行為に対して相応すべき限定がされていない。

したがって、国公法九八条二項はILO八七号条約に違反するから、同条項違反を理由としてされた本件各懲戒処分は違法である。

(三) 一般の公務員の団体交渉権の完全な保障を奪うことはILO九八号条約三条、四条に違反するから、国公法九八条二項は同条約に違反する。

(四) また、国際人権A規約八条三項は、ILO八七号条約の締結国が、同条約に規定する保障を阻害するような立法措置を講ずること又は同条約に規定する保障を阻害するような方法により法律を適用することを禁止しており、前記のとおりILO八七号条約は一般の公務員に争議権を保障している。

また、国際人権A規約八条一項(c)号は労働組合が自由に活動する権利を保障し、同項(d)号は同盟罷業をする権利を保障している。我が国は同項(d)号の批准を留保しているが、同規約八条一項は同盟罷業をする権利と労働組合が自由に活動する権利とを明確に区別して規定しているので、そこにいう同盟罷業とは業務(公務)の正常な運営を停止させる業務(公務)の放棄であり、それに該当しない労働者の行為はすべて労働組合が自由に活動する権利の範ちゅうに入るものと解すべきである。したがって、同盟罷業以外の労働組合活動を禁止することは、同規約八条一項(c)号に違反する。

本件職場大会は極めて短時間のものであり、抗議の意思表明と評価されるべきもので、国際人権A規約八条一項(d)号にいう同盟罷業に当たらないものであり、組合活動の自由の保障の範囲に入る。本件各懲戒処分の対象とされた原告らの行為、すなわち、原告らが全医労の役員として本件職場大会に関するそれぞれの委員会又は代表者会議等に参加した行為は、組合の役員としての権利及び義務に係る行為であり、組合の闘争方針を決め、当面の情勢等に基づいて協議し、オルグ活動等をするのは原告ら組合の役員の責務に係る行為であり、いずれも労働組合が自由に活動する権利の範ちゅうに属するものである。

したがって、本件職場大会に関する原告らの行為に国公法九八条二項違反を理由として本件各懲戒処分をしたことは、国際人権A規約八条三項、同条一項(c)号に違反する。

2  被告処分者らの主張

ILO八七号条約は結社の自由及び団結権の保障に関する条約であって争議権まで保障したものではないので、国家公務員に対して争議行為を禁止する国公法九八条二項は同条約に抵触するものではない。

ILO九八号条約は公務員の地位を取り扱うものではなく、また、その権利又は分限に影響を及ぼすものではない(同条約六条参照)ので、国家公務員に対して争議行為を禁止する国公法九八条二項は同条約に抵触するものではない。

国際人権A規約は、公務員による同盟罷業をする権利の行使について合法的な制限を課することを妨げるものではない(同条約八条二項、一項(d)号参照)。我が国は同条約を批准するに当たり同盟罷業の権利を保障する旨の条項(同条約八条一項(d)号)に拘束されない権利を留保しているので、国家公務員に対して争議行為を禁止する国公法九八条二項は同条約に抵触するものではない。

以上のとおり、国公法九八条二項はILO八七号条約、ILO九八号条約及び国際人権A規約に抵触するものではなく、このことは最高裁判所平成五年三月二日第三小法廷判決(判例タイムズ八一七号一六三頁)において判示するところであり、それらの条約に抵触することにより無効となるということはない。したがって、国公法九八条二項違反を理由とする本件各懲戒処分は適法である。

五  国公法九八条二項違反を理由とする本件各懲戒処分と憲法二八条(適用違憲、争点5)について

1  原告らの主張

憲法二八条は公務員に対しても労働基本権を保障しているので、公務員に対して争議行為を禁止するなど労働基本権の一部を制限する法律が憲法二八条との関係で合憲といえるためには、労働基本権の制限に代わる措置(以下「代償措置」という。)が制度上整備されており、かつ、実際の運用においても現実にその本来の機能を果たしていることが必要である。そうすると、代償措置が制度上十分に整備されていない場合又は制度上は十分に整備されていても実際の運用において「その代償措置が迅速公平にその本来の機能をはたさず実際上画餅にひとしいとみられる事態が生じた場合には、公務員がこの制度の正常な運用を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為にでたとしても、それは、憲法上保障された争議行為であるというべきであるから、そのような争議行為をしたことだけの理由からは、いかなる制裁、不利益を受ける筋合いのものではなく、又、そのような争議行為をあおる等の行為をしたからといって、その行為者に国公法一一〇条一項一七号を適用してこれを処罰することは、憲法二八条に違反する」(全農林警職法事件判決の岸裁判官及び天野裁判官の追加補足意見)というべきである。

以上の解釈は、全農林警職法事件判決の多数意見においては言及されていないが、多数意見の立場からの当然の理論的帰結とされており、その後の最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決(刑集三〇巻五号一一七八頁)の岸裁判官及び天野裁判官の補足意見並びに団藤裁判官の補足意見並びに最高裁判所昭和五二年五月四日(刑集三一巻三号一八二頁)の高辻裁判官の補足意見で踏襲されている。

原告らは、代償措置として制度上どのようなものが整備されなければならないかについては次のように考えるものである。すなわち、代償措置は、憲法二八条で保障されている公務員の労働基本権を国民全体の共同利益を図るという見地から制約することに代わる措置であり、直接憲法二八条に由来するものである。そして、労働基本権の保障は、労働者が団結し、争議権を背景として団体交渉をして使用者との間で実質的な自由と平等を確保した上で労働条件の決定に労働者が実質的に参加することを保障することを趣旨とするものであり、それに代わる措置は右労働基本権保障の趣旨に見合うものでなければならない。そのような見地から代償措置として整備されるべき制度は、労働者の参加する第三者的な中立機関が労働条件の決定について関与し、労働条件の決定についての労使間の交渉が成立しない場合に調停、仲裁を行い、その機関の裁定が迅速かつ完全に実施されるように拘束力を有するという要件を満たすものでなければならない。このような代償措置の要件はILOの承認するものである。

国公法は八六条ないし八八条において、勤務条件に関する行政措置要求制度を定めている。すなわち、職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関して、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により適当な行政上の措置が行われることを要求することができ(八六条)、右の要求があったときは、人事院は、事実審査を行った上で事案を判定し(八七条)、人事院は、その判定に基づき、勤務条件に関し一定の措置を必要と認めるときは、その権限に属する事項については、自らこれを実行し、その他の事項については、内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長に対し、その実行を勧告しなければならない(八八条)。右の行政措置要求制度は国家公務員の労働基本権の制限に対する代償措置の一つと位置づけられている(全農林警職法事件判決の多数意見並びに岸裁判官及び天野裁判官の追加補足意見参照)。

しかるに、行政措置要求に対する判定に当たる人事院を組織する人事官は、両議院の同意を要するとはいえ、内閣がこれを任命するのであり(国公法五条)、労働者側の同意を得ない使用者側の一方的任命というべきものであるので、人事院が公正で中立的な第三者機関ということはできない。また、判定手続に労働者側の参加は保障されておらず、右制度には調停、仲裁機能もなく、その判定が迅速かつ完全に実施されるための拘束力もない。このように、行政措置要求制度は国家公務員の労働基本権を制限することの代償措置として制度的に十分なものとはいえない。

したがって、国公法九八条二項違反を理由とする懲戒処分が憲法二八条に違反しないとするには、行政措置要求制度が運用上十分に機能していなければならない。そして、行政措置要求制度が運用上十分に機能しているといえるためには、人事院の判定が完全に実施されること又は例外的に完全に実施されなくてもそれが誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くしてもなお実行できない場合であることが必要である。

しかるに、前記(第二、一、2)の昭和四〇年人事院判定は、本件職場大会が実施された平成三年一一月当時完全には実施されていなかった。すなわち、昭和四〇年人事院判定の内容は前記(第二、一、2、(三))のとおりであるが、平成三年における国立病院及び国立療養所の看護婦の月間平均夜勤日数は8.7日であり、また、昭和四〇年人事院判定後の医療の高度化、複雑化、過密化により三人から四人の夜勤担当者が必要となっているにもかかわらず、一人夜勤を行っている看護単位が一五パーセントあったのであり、昭和四〇年人事院判定は判定が出されてから四半世紀を経過しているにもかかわらず、その内容は完全には実現されてはいなかった。

また、昭和四〇年人事院判定の運用の当事者である厚生省及び人事院が誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くしたとはいえず、例外的に判定内容が完全に実施されなくてもやむを得ない場合とはいえない。

したがって、昭和四〇年人事院判定については、運用上、代償措置である行政措置要求制度がその本来の機能を果たさず、実際上画餅に等しいと見られる事態が生じたというべきである。

本件職場大会は、昭和四〇年人事院判定の実現、看護婦増員五〇〇〇人の早期実現、平成四年同年看護婦増員抜本対策の追求を中心的に要求して行われたものであり、職場大会が行われた時間も極めて短時間の二九分間に過ぎず、そのような本件職場大会に関与する行為を処分の対象として原告らに対して国公法九八条二項違反を理由として行われた本件各懲戒処分は憲法二八条に違反する。

2  被告処分者らの主張

人事院は、国公法三条三項、四条四項、五条、八条、九条、八六条から九二条までの規定に照らして、公正、中立かつ内閣からの独立を保障された準司法機関的性格を有する第三者機関であり、その下に行政措置要求制度等が整備されていて、これらが代償措置として合理的内容を有するものであることは、最高裁判所も全農林警職法事件判決において認めるところである。

原告らの勤務する各施設の所管庁である厚生省においては、昭和四〇年人事院判定を受け、次の(一)ないし(七)のとおり、昭和四〇年から本件職場大会の行われた平成三年までの間、右判定の実現に向けて真しな努力を傾注し、後記のとおり、看護婦等の夜勤に直接関連する諸条件の改善に努める一方で、増員が困難な状況下において看護婦定員を一万八三三八人から二万九三四二人へと一万一〇〇四人も純増させ、一人夜勤の廃止についてはほぼその内容を実現し、月間平均夜勤日数についても相当程度改善をしてきたのであるから、昭和四〇年人事院判定に関して、代償措置が本来の機能を果たしていないとはいえず、それを前提とする原告らの主張は理由がない。

(一) 厚生省の看護婦等の定員の増加に向けた努力

(1) 厚生省は、昭和四〇年人事院判定が出された後昭和四一年度から昭和四三年度において、看護婦等の夜勤の状況を改善し、右判定の内容を実現するために看護婦の定員増加を求める予算要求を行ったが、看護婦等の定員増は認められず、この間、重症心身障害児(者)収容施設の新設及び新生児看護業務の強化等に伴う増員が認められたにとどまった。それは、後記のとおり(第三、五、2、(二))看護婦等の増員が困難な事情があったほか、その当時社会的に看護婦が不足しており、国立病院等に多数の看護婦を吸収してしまうと他の公立病院及び民間病院における看護婦不足を助長することになり、医療行政上望ましくないと判断されたこともあった。厚生省は、看護婦確保対策として看護婦等養成所の新築等に対する補助制度(昭和二六年創設)、看護婦等養成所に在学する者に対する就学資金の貸与制度(昭和三七年創設)、看護職員の養成施設の整備費に対する国庫補助の大幅拡充(昭和三八年度)等の諸施策の充実を図ることにより看護婦等の不足の改善に努めたが、昭和四一年度における看護婦の不足数は約四万人に達していた。

(2) 厚生省は、昭和四四年度において看護婦等の増員要求を行ったが、後記(第三、五、2、(二))第一次定員削減計画のため、重症心身障害児(者)及び進行性筋萎縮症病床の増床に伴う増員並びに新生児看護業務強化に伴う増員一八〇名の外、夜勤体制強化のための定員増二六一名が認められたにとどまった。

(3) 厚生省は昭和四五年度から平成三年度まで、月間平均夜勤日数を約八日に改善することを前提に、一人夜勤の解消を図るために次のような看護婦等の増員計画を立て、増員要求をした。

昭和四五年度から昭和四七年度までの第一次増員計画は、国立病院及び国立療養所の二人夜勤病棟を全体の看護単位数のそれぞれ五〇パーセント及び三三パーセントとすることを目標とし、昭和五〇年度から昭和五三年度までの第二次増員計画は、国立病院及び国立療養所の二人夜勤病棟を全体の看護単位数のそれぞれ七五パーセント及び五〇パーセントとすることを目標とし、昭和五四年度から平成三年度までの第三次増員計画は国立病院及び国立療養所の二人夜勤病棟を全体の看護単位数のそれぞれ一〇〇パーセント及び七五パーセントとすることを目標としてものである。

昭和四〇年度から平成三年度までの看護婦定員増員の経過は別紙「看護婦定員増員経過一覧表」のとおりであり、右両年度を比較すると、一日平均入院者数が八万四一六八人から七万五一二二人に九〇四六人減少しているにもかかわらず、看護婦の定員数は一万八三三八人から二万九三四二人に一万一〇〇四人増員している。

(二) 看護婦等の増員に対する障害、制約

昭和四〇年人事院判定が出される前年の昭和三九年九月四日、当時の厳しい財政事情のために、行政支出を抑える必要が生じて、内閣は新規採用による公務員の欠員補充を禁止する「欠員不補充措置の強化について」という閣議決定を行い、国立病院等の看護婦については九〇パーセントの欠員補充しか認めない旨の厳しい定員抑制政策が実施されたため、昭和四一年度及び昭和四二年度においては看護婦等の定員を増加させることは困難であり、結局、定員の増加は実現できなかった。

右欠員不補充措置は昭和四二年一二月一五日の閣議決定により廃止されたが、同日付けで、国家公務員の定員を三年間で五パーセント削減すること、昭和四二年九月三〇日現在の凍結欠員を定員から削減すること、定員管理の弾力的、合理的運用を図るため、現行の各省庁ごとの設置法による定員規制を改め、各省庁を通じた総定員のみを法定すること等を内容とする閣議決定が行われたため、昭和四三年度においても看護婦等の定員を増加させることは困難であり、増員を実現することはできなかった。

昭和四四年には、右閣議決定の内容を法定化する総定員法(昭和四四年五月一六日法律第三三号)が公布、施行され、同年四月一日にさかのぼって適用された。

国家公務員の定員削減は、昭和四三年度から昭和四六年度までの第一次定員削減計画の後、昭和四七年度から昭和四九年度までの第二次定員削減計画、昭和五〇年度から昭和五一年度までの第三次定員削減計画、昭和五二年度から昭和五四年度までの第四次定員削減、昭和五五年度の第五次定員削減計画によって計画的に実施され、その結果、国家公務員の定員の総数は昭和四二年度末に三六万〇四九一名であったものが、昭和五五年度末には三三万六〇九九名となり、この間二万四三九二名分の定員が削減された。

また、昭和五三年度の増員要求からは、各省ごとに概算要求基準を設定することによって各省の増員要求の抑制が図られるようになった。昭和五三年度から平成三年度までの具体的な増員要求の限度は、昭和五三年度が前年度要求の二五パーセント減、昭和五四年度が同じく一五パーセント減、昭和五五年度が同じく二〇パーセント減、昭和五六年度が同じく一五パーセント減、昭和五七年度が同じく五〇パーセント減、昭和五八年度が同じく五パーセント減、昭和五九年度から平成二年度までが同じく七パーセント減、平成三年度は同じく1.5パーセント減であった。

昭和五七年度から昭和六一年度までの第六次定員削減計画からはそれまで削減の対象とされていなかった看護婦を含む医療職も削減の対象とされるようになった。

以上のように、昭和四〇年人事院判定がされた後本件職場大会の行われた平成三年まで看護婦等の定員を増員することは極めて困難な状況にあったものである。

(三) 月間平均夜勤日数

前記(第三、五、2、(一))の看護婦等の増員が行われた結果、国立病院等の看護婦等の月間平均夜勤日数は別紙「月間平均夜勤日数経過一覧表」のとおり減少しており、昭和四〇年人事院判定のための調査が行われた昭和三八年一〇月の時点では9.4日であったものが、平成三年一〇月の時点においてはそれが8.8日まで改善された

(四) 一人夜勤の廃止

前記(第三、五、2、(一))の看護婦等の増員が行われた結果、国立病院等において二人以上の看護婦等を配置している看護単位が全看護単位に占める割合は、昭和四〇年人事院判定のための調査が行われた昭和三八年一〇月の時点では二九パーセントであったものが、平成三年一〇月の時点においてはそれが98.1パーセントまで改善され、一人夜勤の廃止に向かって大きく前進した。

(五) 夜勤に関する諸条件の改善

(1) 厚生省は昭和四一年度に、夜間の勤務体制を整備する前提として緊急時の連絡設備及び仮眠室の整備等のために三三三四万円の予算を措置し、昭和四三年度までに合計五五〇〇万円を費やして、休憩室の整備、連絡系統の整備、夜勤における暖房設備の整備等を行った。

(2) 夜勤時の業務範囲の明確化・整理

厚生省は、昭和四一年から毎年四月ころに開催される全国国立病院長会議及び全国国立療養所長会議において「看護婦業務基準」に基づく業務の整理及び業務範囲の明確化を徹底するように各施設を指導した。

また、厚生省は昭和六一年六月一〇日に「国立病院・国立療養所看護業務指針」を作成した。国立病院及び国立療養所の各施設は右指針に沿って看護基準及び看護手順等の見直しを行い、看護体制を強化した。

(3) 夜勤業務の遂行を容易にするための機材、器具等の導入

看護業務の軽減を図るため、昭和四〇年度から製氷器が、昭和四九年度から電子体温計及びエアーパットが、昭和五三年度から輸液監視装置が、昭和五四年度から尿便器洗浄装置が、昭和五五年度から患者移載装置が、昭和五六年度から血液加温装置が、昭和六三年度から血圧自動監視装置が、平成元年度から自動血沈計が、平成三年度から蓄尿容器洗浄装置がそれぞれ導入され、看護婦等の夜勤においてもこれらの機材、器具等の利用により看護業務の遂行の負担が軽減された。

(4) 休憩室、仮眠室その他の設備の改善・整備

昭和四〇年以前から国立病院及び国立療養所の各施設の建替え整備計画時に仮眠室を設置する看護婦更衣棟の整備が行われ、昭和四九年度から休憩室にソファーが、仮眠室に冷房設備がそれぞれ設置され、昭和五三年度からは老朽化した看護婦更衣棟の建替え(仮眠室の整備を含む。)が行われ、病棟の新築又は改修棟の際に休憩室が整備された。

(5) 夜勤時における処置及び連絡等を容易にする方策

昭和四八年度から医師に直接連絡をすることが可能なドクターコール(ポケットベル)が導入され、昭和五四年度からは患者個別に対応可能なナースコールが設置された。

(6) 夜勤交替時の通勤事情に即応する対策

一般の交通機関が運行されていない時間帯に準夜勤と深夜勤の看護婦の交替が行われるので、昭和五二年四月一日から、それに対する手当として、夜勤看護手当に通勤距離に応じた一定の金額(平成三年四月一日以降の一回の夜勤当たりの具体的な金額は、通勤距離が二キロメートル以上五キロメートル未満の者の場合は三八〇円、五キロメートル以上一〇キロメートル未満の者の場合は七六〇円、一〇キロメートル以上の者の場合は一一四〇円である。)が加算されることになった。

(7) 看護の補助業務を行う看護助手の充実

厚生省は看護の補助業務を行う看護助手の増員要求を主体的に行ってきた。その結果、看護助手の定員は、昭和四〇年には二八五三人であったが、平成三年度には五二九七人となっており、この間二四四四人増員された。

(8) 夜間看護手当について

厚生大臣は昭和四〇年六月に人事院総裁に対して夜間勤務の看護婦等の処遇の改善措置として看護婦等の夜勤手当の支給率を一〇〇分の二五から一〇〇分の五〇に引き上げるように要望し、その結果人事院は、同年一二月二七日一般職の職員の給与に関する法律に基づき人事院規則の一部を改正して昭和四〇年八月一日から看護婦等の夜間看護手当を新設し、勤務一回につき一〇〇円の手当を支給するものと定めた(その後、金額については適宜増額された。)。

(六) 産後の看護婦等の夜勤の免除について

厚生省医務局管理課長は、昭和四〇年六月二五日に各地方医務局長、各国立病院長、各国立療養所長及び国立がんセンター総長に対して「おおむね産後六月程度を標準として、各施設ごとにその実情に応じ、かつ、健康状態については個人差に応じた取扱をすべきである」との昭和四〇年人事院判定の趣旨を明記し、それを踏まえて現行の勤務配置の再検討をして看護婦の夜間勤務の負担を軽減するように指示する通知(医発第七六五号)をし、厚生省は次年度予算において具体的方策を検討した。

各施設では右指示を受けて右人事院判定の趣旨に沿うように勤務配置を再検討し、その趣旨を実現するように努力した。

昭和四八年一二月二〇日人事院規則一〇―七(女子職員及び年少職員の健康、安全及び福祉)の一部改正が行われ、産後一年以内の女子職員が請求した場合にはその者の業務を軽減し又は他の軽易な業務に就かせなければならないこととされた(同規則九条)。厚生省はこの規定の運用に関して右業務軽減の措置には深夜勤務の制限も含まれることを所管の各医療機関に通知し、昭和五〇年一二月二三日には厚生省医務局管理課長は、各国立病院長、各国立療養所長及び国立がんセンター総長に対して右改正の趣旨に則って産後一年以内の看護婦の深夜勤務の制限の徹底を指示する旨の通知(管第七二号)を行った。

昭和六一年三月一五日人事院規則一〇―七(女子職員及び年少職員の健康、安全及び福祉)が一部改正され、妊産婦である女子職員が請求した場合には深夜勤務又は正規の勤務時間以外の時間における勤務をさせてはならないと規定され、昭和四〇年人事院判定のこの点に関する趣旨は人事院規則により明文化された。厚生省は、右改正の後、妊産婦の夜勤免除にともなう代替要員を任用するための予算措置を講じ、看護業務の円滑化を図った。右予算額は昭和六三年度については二億五〇〇〇万円余りであったが、その後年毎に増額されていった。

(七) 休憩、休息時間の明示について

厚生省医務局管理課長は、昭和四〇年六月二五日に各地方医務局長、各国立病院長、各国立療養所長及び国立がんセンター総長に対して昭和四〇年人事院判定の休憩、休息時間の明示についての判定内容を通知し(医発第七六五号)、その徹底を図った。通知を受けた各施設は昭和四〇年人事院判定の休憩、休息時間の明示についての判定内容を実現すべく努力を行った。

昭和四五年四月一〇日人事院規則一五―一(職員の勤務時間等の基準)の一部が改正され、従来は正規の勤務時間四時間につき一五分の休息時間を置くこととされていたのが、おおむね四時間の連続する正規の勤務時間ごとに休憩時間を置くことができるようになり、休憩、休息時間の設定の仕方が弾力的に運用できるようになったことにより、看護婦等の夜勤の休憩、休息時間を明示することも従来よりも容易になった。

厚生省大臣官房人事課長はそのころ右改正に関する通知を行い、それを受けて、関東信越医務局では昭和四五年一二月五日に管内の各施設長に対して職員服務規程の案を示して勤務時間、休憩時間及び休息時間を定めるよう指導するなど、各地方医務局では管内の各施設に対し勤務時間の明示等について徹底を図った。その結果、各施設では休憩、休息時間が明示されるようになった。

昭和六三年二月一九日人事院規則一五―一(職員の勤務時間等の基準)が一部改正され、その運用通知第六条関係第九項で勤務時間の割り振りの定めは職員に対して速やかに明示することとされ、その後、人事院規則一五―一四(職員の勤務時間、休日及び休暇)九条で右趣旨が明文化された。

六  本件各懲戒処分が懲戒権を濫用したものとして無効となるか否か(争点6)について

1  原告らの主張

本件各懲戒処分は、次の各事実に照らしてみると、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できるものではなく、また、国公法七四条一項が懲戒処分の有効性の要件として定めた懲戒処分の公正を欠くから、懲戒権の濫用に当たり、無効である。

(一) 本件職場大会における要求事項の正当性

本件職場大会は昭和四〇年人事院判定の実現とそのために必要な看護婦の増員を要求するために行われたものであり、右要求事項は厚生省や各病院長も認める正当なものであった。

(二) 国家公務員の争議行為禁止の代償措置といわれる人事院判定が四半世紀も実施されない状況であったこと

行政措置要求制度は国家公務員の争議行為を禁止する代償措置として整備されたものであるが、前記(第三、五、1)のとおり、昭和四〇年人事院判定の内容は、判定がされてから二五年以上経過しても完全には実施されていなかった。特に国立病院等の看護婦等の月間平均夜勤日数は、右人事院判定のための調査が行われた昭和三八年一〇月の時点で9.4日であったものが、その後二八年間も経過した平成三年において8.7日とわずか0.7日減少しただけであり、この割合では昭和四〇年人事院判定で示された八日となるのに更に二八年間もかかるような状況であり、平成三年当時この点に関して昭和四〇年人事院判定が完全に実現される見通しは全くなかった。

このような状況の中で、昭和四〇年人事院判定を四半世紀も実行しなかった当局が、その実現を求めて本件職場大会が実施されたことを理由に懲戒処分を行うことは、極めて不合理、不公平である。

(三) 時間内職場大会実施は職場組合員の要求であったこと及び具体的処分理由を欠くこと

原告らに対する本件各懲戒処分は、全医労本部役員又は支部長であった原告らが争議行為の企て、共謀、そそのかし、あおりを行ったことを懲戒事由とするものであるが、本件職場大会はむしろ職場の組合員らの組合執行部への争議行為実施の要求に基づいて行われたものである。また、被告処分者らは原告らが具体的にいつどのような行為を行ったのか明らかにしておらず、本件各懲戒処分は、原告らが全医労の役員又は支部長であったことのみを理由として行われたものであるので、具体的な処分理由を欠く違法な処分である。

(四) 厚生省は本件職場大会設定日前の交渉を拒否したこと

平成三年九月六、七日に開催された全医労第九六回中央委員会で「ストライキの決行についての判断は中央闘争委員会で行う」旨決定された後、全医労本部は、本件職場大会が予定されていた同年一一月一三日以前にトップ交渉などの厚生省の対応があれば時間内に入らない時間外職場大会を行うなど、ストライキを回避する考えの下に、厚生省との窓口折衝において、右同日以前の厚生省保健医療局長が出席する交渉を行うよう求めた。しかし、厚生省は、「一一月一三日以前には交渉はセットできない」旨の不誠実な対応を行い、本件職場大会の実施を回避するための姿勢を全く示さなかったので、やむなく本件職場大会が実施されるに至った。

(五) 本件職場大会は医療業務に全く支障が出ない方法で実施されたこと

本件職場大会は、医療業務に支障のない時間帯に、短時間、保安要員配置などの点で配慮して、病院の医療業務には全く支障を生じさせないようにして行われたものである。

国立病院の日勤者の始業時刻は午前八時三〇分であるところ、本件職場大会は始業時刻前の午前八時すぎから開始して始業時刻後の午前八時五九分までには終了し、日勤者はおそくとも午前九時には勤務に就くというものであった。すなわち、勤務時間との関係では、午前八時すぎから開始された本件職場大会は八時三〇分以降の勤務時間に最大限でも二九分食い込んだだけで終了するものであった。また、保安要員の点で言えば、ボイラー関係の職員は本件職場大会に参加せずに勤務に就くこと、看護婦については深夜勤務者は職場大会に参加せずに勤務時間を延長し日勤の看護婦が職場大会終了後勤務に就いてから引継ぎを行うこと等の措置を執った。なお、本件職場大会に参加する日勤者についても、各職場の状況に応じて、業務に支障のないようにいったん職場に出て仕事の準備を済ませた後で午前八時すぎから本件職場大会に参加した者もいた。緊急の事態や救急患者が入った場合には、必要な職員は職場大会に参加せずに勤務を行うこととした。

以上のように、本件職場大会は、保安要員配置等の措置を講じるなどして、病院の医療業務には何らの支障も生じさせないように準備された上で極めて短時間実施され、実際に本件職場大会によって各医療機関の医療業務には一切の支障がなかった。

(六) 本件各懲戒処分による不利益は重大なものであること

原告らに対する本件各懲戒処分によって原告らは昇給を三箇月延伸され、勤務手当を削減されたが、それらによる経済的損失は被処分者を平均して四〇万円以上になるものであり、本件各懲戒処分は原告らに対して苛酷な経済的不利益を課するものである。また、正当な目的のために、業務に全く支障が生じない方法・態様で行われた本件職場大会を理由にされた本件各懲戒処分は、社会的に非難を受ける非違行為など一切行っていない原告らにとって耐え難い重大な屈辱を与えるものである。

(七) 本件各懲戒処分は厚生省が懲戒権者である病院長の意思を無視して病院長に命じたものであること

本件各懲戒処分の懲戒権者は各施設の病院長であるが、各病院長は本件職場大会に関して処分を行うべきであるという意見を持つはずがなく、本件各懲戒処分は厚生省当局が処分をすべきか否か及び処分の種類の選択について懲戒権者である各病院長の意見を徴することなく、原告らを懲戒戒告処分とすることを決定し、その発令日を指定して、各病院長に命じて行わせたものであって、「懲戒処分は、任命権者が、これを行う。」と定めた国公法八四条一項に違反し、厚生省が懲戒権を濫用したものである。

(八) 本件職場大会以前の職場大会を理由とする処分について

全医労が本件職場大会以前に実施した時間内職場大会に関しては、懲戒処分として本部役員に対しては戒告、地方協議会の役員に対しては訓告、支部長に対しては厳重注意であった。また、以前の訓告・厳重注意の処分においては勤務手当のカットという経済的制裁はなかった。

しかるに本件処分は、全医労においても前例を見ない、支部長までも戒告処分の対象とした、合計三〇九〇名の大量処分であり(中央闘争委員二六名のほか支部長一四七名の戒告、さらに三九九名の訓告と二五八一名の厳重注意)、訓告・厳重注意でも勤務手当がカットされた。

(九) 厚生省は全医労を敵視し、組織攻撃を行おうとしていたこと

厚生省当局は、昭和六一年以降、国立病院及び国立療養所の統廃合移譲計画を実施しようとし、これに反対する全医労を事業運営に対する重大な障害であると敵視し、その弱体化を意図していたが、本件職場大会に関しては、全医労に対する組織攻撃として厳しい懲戒処分を行うという方針を決定し、全医労執行部役員及び支部長に対して懲戒戒告処分を行うように各病院長に命じたものである。

2  被告処分者らの主張

国家公務員について国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が右裁量権の行使として行った懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして違法とはならないと解すべきである。

最高裁判所の判例(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決(民集三一巻七号一一〇一頁))もその旨判示している。

本件各懲戒処分の懲戒事由は前記(第二、一、6)のとおりであり、本件職場大会に関する原告らの各行為をその懲戒事由とするものであるが、本件職場大会は、事前に各病院当局が警告を発していたにもかかわらず(西多賀病院においては事前の警告に加えて勤務時間に入った午前八時三〇分以降三回にわたって解散命令、就業命令が発せられた。)、それらを無視し、前記(第二、一、5)のとおりの規模・態様でいずれも国立病院等の看護婦等の職員が一斉に職場を放棄して行われた争議行為であり、計画段階から病棟業務のための極めて重要な時間帯である午前八時三〇分からの二九分間の勤務時間内に食い込むことが予定され、実際に右時間帯に日勤の勤務に就くべき職員が勤務を行わなかったものであって、各病院業務に対して重大な影響をもたらし、支障を来したものである。他方、本件各懲戒処分はいずれも戒告処分であり、同処分は結果として昇給延伸等の措置を伴うことがあるものではあるが、国公法八二条所定の懲戒処分のうち最も軽い処分である。

以上の事実に照らして、本件各懲戒処分は、本件職場大会の動機、目的及び戒告処分が昇給延伸の措置を伴うものであること等の事情を考慮しても、懲戒事由と処分との均衡を何ら失するものではなく、社会的に著しく妥当を欠くものとはいえないので、懲戒権を濫用したものとして無効となるようなものではない。

これに対して、原告らは、昭和四〇年人事院判定が行われた後二五年以上立ってもその内容が実施されておらず、公務員の労働基本権を制約する代償措置としての機能を果たしていなかったとして、その実施を求めるために行われた本件職場大会は、その目的が正当なものであったと主張するが、前記(第三、五、2)のとおり、厚生省は昭和四〇年人事院判定の内容を実現するために看護婦等の夜勤に直接関連する諸々の勤務条件の改善に努力するとともに、看護婦等の定員を増加させることが極めて困難な状況であったにもかかわらず、月間平均夜勤日数の減少及び一人夜勤の解消のために計画的に増員要求を行ってその努力をしていたのであり、その結果、南福岡病院では昭和四六年七月一日の発足から平成三年までに看護婦の定員は一〇七名から一六二名と五五名が増員され、賃金職員の定員は九名から一六名と七名が増員され、沖縄病院では発足直後の昭和五四年から平成三年までに看護婦の定員は一〇八名から一四〇名と三二名が増員され、賃金職員の定員は一二名から一四名と二名が増員され、西多賀病院では昭和四〇年から平成三年までに看護婦の定員は九四名から一七九名と八五名が増員され、昭和四五年から平成三年までに賃金職員の定員は四名から二九名と二五名が増員されたのであって、昭和四〇年人事院判定は代償措置としての機能を十分果たしていたのであるから、本件職場大会の目的を正当なものとすることはできない。

また、原告らは本件職場大会が三〇分に満たない時間しか勤務時間に食い込んでいないこと、保安要員を配置したこと等から本件職場大会により各医療機関の業務に全く支障はなく、その手段方法は社会的に相当なものであった旨主張するが、本件職場大会は、それが三〇分に満たない場合であったとしてもそれに参加した者は公務員として負担する職務専念義務に違反して労務の提供を拒否し、業務の正常な運営を阻害したものというべきであり、国公法九八条二項の禁止する争議行為に該当することは明らかである。本件職場大会の行われた時間帯である午前八時三〇分から午前九時までの間には、ほとんどの病棟で深夜勤務者から日勤者に対して患者の病状等の看護に必要は情報の申し送りや日勤者の業務分担の指示等がされることとなっているが、これらは日勤者の当日の看護業務に不可欠なものであり、深夜勤務者が勝手に勤務時間を延長して本件職場大会の終了後にこれらの申し送り等をしたり、勝手に通常よりも早く出勤して本件職場大会の前に診療準備等をしたりしても、それらは正常な業務の運営とはいえず、本件職場大会により必然的に業務の遅れを生じるなど業務の正常な運営が阻害されたことが明らかである。また、原告らの主張する保安要員とは単に職場大会に参加しない者をいうに過ぎず、本件職場大会により実際に患者の医療や看護に具体的障害が発生しなかったからといって、本件職場大会の手段、方法が社会的に容認されるべき相当性があるとはいえない。

さらに、原告らは、本件職場大会に関して全医労の多数の支部長らが戒告処分を受けたこと等を根拠として本件各懲戒処分が全医労の団結権侵害の意図に基づくものである旨主張するが、全医労の多数の支部長らに対する戒告処分は本件職場大会の計画から実施に至るまでに各人が果たした役割及び行為に応じて戒告処分としたのであり、原告らに対する本件各懲戒処分も本件職場大会に関して原告らの果たした役割及び行為に応じて行われたものであり、本件各懲戒処分が全医労の団結権侵害の意図に基づいてなされたものでないことは明らかである。

七  本件各裁決は判断を遺脱したものか否か(争点7)について

1  原告らの主張

本件職場大会は、看護婦増員抜本策の追及、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等の要求を掲げて行われたものであるが、これらの目的・要求課題は国立病院及び国立療養所で働く労働者にとっては昭和四〇年人事院判定以来四半世紀に及ぶ切実な要求課題であり、その経過があって本件職場大会に至ったものであり、原告らは本件訴訟に先立つ人事院における各不服審査において、これらを強く主張してきたが、本件各裁決はこれらに全く触れておらず、本件の中心的な事実について認定・判断を遺脱したものである。

2  被告人事院の主張

被告人事院は、本件各裁決において、本件職場大会の目的・要求課題について認定及び判断をしており、これらの事実認定及び判断を遺脱した違法はない。

本件職場大会の目的・要求課題については、原告A外八名に係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三―一三の「事実及び争点」においては言及していないが、「理由」の第1、3、(1)において、「全医労は、平成三年七月一一日から一三日までの間、第四五回定期全国大会を開催し、同大会において、国立医療機関の再編成に係る『全体計画』の阻止、完全週休二日制、看護婦をはじめとする全職種の大幅増員等の要求実現の闘いを行うため、中央闘争委員会を次期定期全国大会開催時期までを任期として設置すること、日本医労連の行う秋の全国統一ストライキへの参加を検討していくことなどを決議し、同月一三日、中央闘争委員会を設置した。」との事実を、同第1、3、(2)において、「全医労は、上記全国大会の決議を踏まえ、本部執行部において、地方協議会等の意見を集約して秋闘方針について検討した。次いで、本件執行部は、八月二七日付けの機関紙『全医労新聞(号外)』に、日本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦等の人材確保の促進に関する法律(以下「看護婦確保法」という。)の制定等を求めて一一月中旬に予定している全国統一ストライキに、全医労独自の要求として看護婦増員抜本策の追及、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等を求める闘いを加えて統一時間内職場大会で積極的に参加して闘うこと、全組合員を対象に徹底した教育、宣伝活動を強化するなどして闘う態勢作りに全力をあげること、全組合員の団結と闘う意思統一を図ること、支部、地区協議会・地方協議会(以下「地区・地方協」という。)はストライキを含む緊急指示に対して即応できる体制を強化するため直ちに闘争委員会を設置すること、統一ストライキ決行についての判断を中央闘争委員会で行うことなどの秋闘方針案を掲載して組合員に周知した。」との事実を、同第1、3、(3)において、「全医労は、九月六日及び七日の両日、第九六回中央委員会を開催し、本部執行部は、これに勤務時間内職場大会の実施を含む秋闘方針案を提出した。次いで、中央委員会は、本部執行部が提出した秋闘方針案について討議し、統一ストライキ決行についての判断及びストライキの時間帯等の決定は中央闘争委員会で行うことなどを原案どおり決議した。」との事実を、それぞれ認定し、同第2、1において、「全医労が平成三年二月一三日に行った午前の勤務時間に食い込む職場大会は、日本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦確保法の制定等を求めて行った全国統一行動の一環として、全医労独自に看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等の諸要求を加えてこれらの実現を求め、厚生省当局の警告を無視して行われ、これに多数の職員が、その所属する職員団体の統制に従って集団的に参加して職務を放棄し、これによって業務の正常な運営を阻害したものと認められるから、これら職員の行為は、法第九八条第二項前段で禁止されている争議行為に該当する。」と、同第3、3において、「しかしながら、本件争議行為の実態は、前記第1の3認定のとおり、日本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦確保法の制定等を求めて行った全国統一ストライキに、全医労独自の要求として看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等広範な要求を加えて行われたものであって、上記要求項目の一部にかかる夜勤判定に関連する主張をもって代償措置制度を云々し、本件争議行為を正当化することはできず、請求者の主張を認めることはできない。」と、それぞれ判断している。

また、原告Jに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三―一四、原告Kに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三―一五、原告Lに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三―一六においては、いずれも、全医労本部関係の闘争経緯として、同第1、2、(1)、アにおいて、「全医労は、平成三年七月一一日から二二日の第四五回定期全国大会において、国立医療機関の再編成に係る『全体計画』の阻止、完全週休二日制、看護婦をはじめとする全職種の大幅増員等の要求実現の闘いを行うため、中央闘争委員会を設置すること、日本医療労働組合連合会(以下「日本医労連」という。)の行う秋の全国統一ストライキへの参加を検討していくことなどを決議し、次いで、九月六日及び七日の第九六回中央委員会において、日本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦等の人材確保の促進に関する法律(以下「看護婦確保法」という。)の制定等を求めて一一月中旬に予定している全国統一ストライキに、全医労独自の要求として看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等を求める闘いを加えて統一時間内職場大会で積極的に参加して闘うこと、統一ストライキ決行についての判断及びストライキの時間帯等の決定は中央闘争委員会で行うことなどを内容とする九一年秋期年末闘争(以下「秋闘」という。)の方針を決議した。」との事実を認定し、同第2、1において、「支部が平成三年一一月一三日に行った勤務時間内職場大会は、全医労本部執行部の傘下各支部に対する指令に基づき、月本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦確保法の制定等を求めて行った全国統一行動の一環として、全医労独自に看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等の諸要求を加えてこれらの実現を求め、当局の警告を無視して実施され、勤務義務を有する複数の職員がこれに参加して職務を放棄したものであり、業務の正常な運営を阻害したものと認められるから、これら職員の行為は、法第九八条第二項前段で禁止されている争議行為に該当する。」と、同第3、3において、「本件争議行為の実態は、前記第1の2認定のとおり、日本医労連が国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦確保法の制定等を求めて行った全国統一ストライキに、全医労独自の要求として看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等広範な要求を加えて行われたものであって、上記要求項目の一部にかかる夜勤判定に関連する主張をもって代償措置制度を云々し、本件争議行為を正当化することはできず、請求者の主張を認めることはできない。」と、それぞれ判断している。

したがって、本件人事院の各判定においては、本件職場大会の目的・要求課題に関する事実認定及び判断を遺脱した違法はない。

八  本件各裁決が昭和四〇年人事院判定等について判断を誤ったか否か(争点8)について

1  原告らの主張

本件各裁決は、四半世紀にわたって人事院判定の履行・実現が放置されてきたことについて、判定の内容は勧告的意見の表明であって、それ自体で職員の勤務条件に直接影響を及ぼすものではなく、単なる努力目標であるかのごとき判断を示しているが、国公法八七条及び八八条は人事院に事実を判定するとともに、判定に基づき勤務条件に関して一定の措置を必要と認めるときは、その権限に属する事項については、直ちにこれを実行し、その他の事項については、内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長に対してその実行を勧告しなければならないとしているし、仮に勧告書が発せられなくても判定書によって人事院の判断及びその結果とされる措置は明らかとなるので、判定書により実質的な解決がなされることになるのであるから、本件各裁決は明らかに公務員の争議権剥奪の代償措置としての行政措置要求に基づく判定及びその結果取るべき措置についての判断を誤ったものである。

2  被告人事院の主張

国公法は、職員から勤務条件に関する行政措置の要求がなされた場合には、人事院は、必要と認める調査を行い、一般国民及び関係者に公平なように、かつ、職員の能率を発揮し、及び増進する見地において事案を判定し、判定に基づき勤務条件に関して一定の措置を必要と認めるときは、その権限に属する事項については、自らこれを実行し、その他の事項については、内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長に対し、その実行を勧告しなければならないと規定している(同法八六条から八八条まで)。人事院は、これらの規定に基づき、その権限と責任において、行政措置要求制度の適切な運営に努めているところである。

この行政措置要求制度における判定は、個別の職員に課せられた処分の当否を判断し、必要な場合は救済することを目的とする不利益処分審査の判定とは異なり、要求が勤務条件の改善を目的とするものであることから、その判定あるいは判定に伴って発出する勧告は、申請者のみの勤務条件の改善にとどまらず、ひいては国家公務員全体の勤務条件の改善につながることが多いものである。また、一定の措置が必要であると判定で示された場合には、速やかにそれが実施されることが望ましいことは当然であるが、採られるべき措置の内容によっては、改善に相当の財源、時間等を要したり、他の制度との調整、人事上の措置等を要することも考えられることから、判定に直接の法律的拘束力を持たせることなく、判定の内容は勧告的意見の表明であると位置付けられているものである。勧告の発出については、判定自体が勧告的意見の表明であり、当局もこれを尊重して判定で示された措置の実施に努力していることが認められることから、通常の場合、人事院としては、更に勧告を発出するまでのことは行っていない状況にある。

被告人事院は、右行政措置要求制度の趣旨にかんがみ、本件各判定において、「そもそも、行政措置要求制度における判定の内容は勧告的意見の表明であって、それ自体で職員の勤務条件に直接影響を及ぼすものではなく、その内容を尊重して、関係者の協力により推進されるべきものであり、本件夜勤判定についても同様の性格を有するものである。同判定の趣旨は、月間平均夜勤日数について諸般の事情を考慮し、約八日をもって一応の目標として計画的にその実現を図るべきとしており、また、一人夜勤で足りると考えられる看護単位以外のものの一人夜勤の廃止について一挙に廃止することが諸般の事情により不適当と思料されるので、夜勤日数その他関連する事項に及ぼす影響についての考慮をも併せ行った上で計画的にその廃止に向かって努力すべきであるとしたものであって、これらを踏まえて関係者の協力により推進されるべきものである」との判断を示しているのであって、原告らの主張は理由がない。

第四  争点に対する判断

一  懲戒事由該当性

前記(第二、二、1から8まで)の各争点について判断する前提として、本件職場大会に関する原告らの各行為が国公法九八条二項前段又は後段に違反し、同法八二条一号の懲戒事由に該当するか否かについて検討する。

1  原告A外八名について

(一) 本件職場大会が行われた平成三年当時、原告Aは、前記(第二、一、1、(二)、(1))のとおり、全医労副委員長であって、中央闘争委員を兼任していた者であり、原告B、同C、同D、同E、同F、同G及び同Hは、前記(第二、一、1、(二)、(2)から(8))のとおり、全医労中央執行委員であって、中央闘争委員を兼任していた者であるが、右原告ら八名は、中央執行委員会の構成員として、前記(第二、一、3、(一)から(五))のとおり、本件職場大会の実施等を含む「九一年秋期年末闘争方針」を中央委員会に提案し、同委員会においてこれを決定させ、中央闘争委員会の構成員として、全医労傘下の支部に時間内職場大会開催のためのスト批准投票を実施させ、スト準備指令を発出し、スト指令を発出して、平成三年一一月一三日、組合員である国立病院等の職員を本件職場大会に参加させて同盟罷業を行わせたのであって、これらの行為は国公法九八条二項後段の争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為に該当し、同条項に違反するものであるので、同法八二条一号に該当する。

(二) 原告Iは、前記(第二、一、1、(二)、(9))のとおり、本件職場大会が行われた平成三年当時、全医労中央闘争委員であった者であるが、中央闘争委員会の構成員として、前記(第二、一、3、(一)から(五))のとおり、時間内職場大会開催のためのスト批准投票を、全医労傘下の支部に実施させ、スト準備指令を発出し、スト指令を発出して、平成三年一一月一三日、組合員である国立病院等の職員を本件職場大会に参加させて同盟罷業を行わせたのであって、これらの行為は国公法九八条二項後段の争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為に該当し、同条項に違反するものであるので、同法八二条一号に該当する。

2  原告Jについて

原告Jは、本件職場大会が行われた平成三年当時、南福岡支部の支部長として同支部の組合活動を統括していたところ、前記(第二、一、5、(一)、(1)及び(3))のとおり、他の支部役員らとともに、全医労中央闘争委員会の指示に基づき、時間内職場大会実施の批准投票を実施し、執行委員会において時間内職場大会に関する討議・決定を行い、時間内職場大会の準備を進め、組合員に参加を呼び掛ける行為を行い、警告を無視して組合員である南福岡病院職員を本件職場大会に参加させて同盟罷業を行わせるとともに、演説を行い、自らも同盟罷業に参加したのであって、これらの行為は国公法九八条二項前段及び後段の同盟罷業、争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為に該当し、同条項に違反するものであるので、同法八二条一号に該当する。

3  原告Kについて

原告Kは、本件職場大会が行われた平成三年当時、沖縄病院支部の支部長として同支部の組合活動を統括していたところ、他の支部役員らとともに、前記(第二、一、5、(二)、(1)及び(3))のとおり、全医労の指示に基づき、批准投票を実施し、支部執行委員会を開催し時間内職場大会の実施を討議して決定し、前記(第二、一、5、(二)、(1)から(3)まで)のとおり、本件職場大会に参加することを呼び掛け、沖縄病院長大城盛夫の警告を無視して、組合員を本件職場大会に参加させて同盟罷業を行わせるとともに、自らも同盟罷業に参加したのであって、これらの行為は国公法九八条二項前段及び後段の同盟罷業、争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為に該当し、同条項に違反するものであるので、同法八二条一号に該当する。

4  原告Lについて

原告Lは、本件職場大会が行われた平成三年当時、西多賀支部の支部長として同支部の組合活動を統括していたところ、他の支部役員らとともに、前記(第二、一、5、(三)、(1)から(3)まで)のとおり、全医労本部の指示に基づき、西多賀支部執行委員会において時間内職場大会実施に関する関する討議・決定を行った上、時間内職場大会の批准投票を実施し、時間内職場大会の準備を進め、組合員に参加を呼び掛ける行為を行い、当局の警告を無視して、組合員である西多賀病院職員を本件職場大会に参加させて同盟罷業を行わせるとともに、演説を行い、自らも同盟罷業に参加したのであって、これらの行為は国公法九八条二項前段及び後段の同盟罷業、争議行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為に該当し、同条項に違反するものであるので、同法八二条一号に該当する。

5  以上のとおり、本件職場大会に関する原告らの行為は、国公法九八条二項に違反し、いずれも同法八二条一号に該当するものである。

二  国公法九八条二項と憲法二八条(争点1)について

原告らは国公法九八条二項が憲法二八条に違反して無効である旨主張するが、国公法九八条二項が憲法二八条に違反するものではないことは、最高裁判所が全農林警職法事件判決において判示しており、さらに、国家公務員に対する懲戒処分の適法性の判断に当たっても同様に解すべきことが確認されているところであり(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決民集三一巻七号一一〇一頁、昭和六〇年一一月八日第二小法廷判決民集三九巻七号一三七五頁)、当裁判所もまた右判断を相当と思料するものであるから、原告らの右主張は採用することができない。

すなわち、全農林警職法事件判決は、国家公務員の争議行為を一律禁止する国公法九八条二項を合憲とする理由について、おおむね次のように判示している。

憲法二八条は勤労者のいわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法二五条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法二七条の勤労の権利及び勤労条件に関する基準の法定の保障と相まって勤労者の経済的地位の向上を目的とするものであって、このような労働基本権の根本精神に即して考えると、憲法二八条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。ただ、この労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないものであり、このことは、憲法一三条の規定の趣旨に徴しても疑いのないところである。この理を非現業の国家公務員(以下単に「国家公務員」という。)について詳述すれば、次のとおりである。

国家公務員は、私企業の労働者と異なり、国民の信託に基づいて国政を担当する政府により任命されるものであるが、憲法一五条の示すとおり、実質的にはその使用者は国民全体であり、国家公務員の労務提供義務は国民全体に対して負うものである。国家公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみるときは、これを根拠として国家公務員の労働基本権に対して必要やむを得ない限度の制約を加えることは十分合理的な理由があるというべきである。国家公務員は、公共の利益のために勤務するものであり、公務の円滑な運営のためには、その担当する職務内容の別なく、それぞれの職場においてその職責を果たすことが必要不可欠であって、国家公務員が争議行為に及ぶことは、その地位の特殊性及び職務の公共性と相容れないばかりでなく、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は勤労者を含めた国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあるからである。

次に、国家公務員の給与その他の勤務条件は、国民の代表者で構成される国会の制定した法律及び予算によって決定されるべきものとされており(憲法七三条四号、八三条)、労働者側の利潤分配要求が自由とされる私企業の場合のように労使間の自由な団体交渉に基づく合意によって決定されるべきものとはされていないのであるから、国家公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について国家公務員が政府に対し争議行為を行うことは、使用者としての政府によっては解決できない立法問題に逢着せざるを得ないこととなり、ひいては民主的に行われるべき国家公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなって、憲法の基本原則である議会制民主主義に背馳し、国会の議決権を侵すおそれすらなしとしない。

さらに、私企業においては、一般に使用者にはいわゆる作業所閉鎖(ロックアウト)をもって争議行為に対抗する手段があるばかりでなく、労働者の過大な要求を容れることは、企業の経営を悪化させ、企業そのものの存在を危殆ならしめ、ひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすことともなるのであるから、労働者の要求はおのずからその面よりの制約を免れず、ここにも私企業の労働者の争議行為と国家公務員のそれとを一律同様に考えることのできない理由の一つが存する。また、一般の私企業においては、その提供する製品又は役務に対する需給につき、市場からの圧力を受けざるを得ない関係上、争議行為に対しても、いわゆる市場の抑制力が働くことを必然とするのに反し、国家公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がないため、国家公務員の争議行為は場合によっては一方的に強力な圧力となり、この面からも国家公務員の勤務条件決定の手続をゆがめることとなるのである。

以上のように、国家公務員の争議行為は、国家公務員の地位の特殊性と勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障の見地から、一般私企業におけるとは異なる制約に服すべきものとすることができる。しかし、国家公務員についても憲法によってその労働基本権が保障される以上、この保障と国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれることを必要とすることは、憲法の趣意であると解されるのであるから、その労働基本権を制限するに当たっては、これに代わる相応の措置が講じられなければならない。そこで、法制上の国家公務員の勤務関係における具体的措置が果たして憲法の要請に添うものかどうかについて検討を加えてみるに、国家公務員たる職員は、後記のように法定の勤務条件を享受し、かつ、法律等による身分保障を受けながらも、特殊の公務員を除き、一般に、その勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体を結成すること、結成された職員団体に加入し、または加入しないことの自由を保有し(国公法一〇八条の二第三項)、さらに、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、及びこれに付帯して一定の事項に関し、交渉の申入れを受けた場合には、これに応ずべき地位に立つ(国公法一〇八条の五第一項)ものとされているのであるから、私企業におけるような団体協約を締結する権利は認められないとはいえ、原則的にはいわゆる交渉権が認められており、しかも職員は、右のように、職員団体の構成員であること、これを結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたことはもとより、その職員団体における正当な行為をしたことのために当局から不利益な取扱いを受けることがなく(国公法一〇八条の七)、また、職員は、職員団体に属していないという理由で、交渉事項に関して不満を表明し、あるいは意見を申し出る自由を否定されないこととされている(国公法一〇八条の五第九項)。ただ、職員は、前記のように、その地位の特殊性と職務の公共性とにかんがみ、国公法九八条二項により、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をすることを禁止され、また、何人たるを問わず、かかる違法な行為を企て、その遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおってはならないとされている。そしてこの禁止規定に違反した職員は、国に対し国公法その他に基づいて保有する任命又は雇用上の権利を主張できないなど行政上の不利益を受けるのを免れない(国公法九八条三項)。しかし、その中でも、単にかかる争議行為に参加したに過ぎない職員については罰則はなく、争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てたものについてだけ罰則が設けられているのにとどまるのである(国公法一一〇条一項一七号)。

このように、国家公務員は、その争議行為等が勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受けるが、その生存権保障の趣旨から、法は、右制約に見合う代償措置として、身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けており、殊に国家公務員は法律によって定められる給与準則に基づいて給与を受け(国公法六三条、六六条、六七条)、その給与準則には棒給表のほか法定の事項が規定される等(国公法六四条、六五条等)、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであって、人事院は、国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により国会及び内閣に対して勧告又は報告をすることを義務づけられている(国公法二八条、人事院勧告制度)。また、国家公務員は、個別的に又は職員団体を通じて俸給その他の勤務条件に関し、人事院に対していわゆる行政措置要求をし、あるいは、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対して審査請求をすることができる(国公法九〇条)のであって、このように国家公務員は労働基本権に対する制約の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けている。

以上のとおり、国家公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているから、国公法九八条二項(ただし、判決の言渡し当時は九八条五項)は憲法二八条に違反しない。

全農林警職法事件判決は以上のように判示しており、憲法二八条の労働基本権の保障は国家公務員に対しても及ぶが、国民全体の共同利益の保障という見地からする内在的制約を免れず、その勤務条件が労使間の自由な交渉に基づく合意によって定められるものではなく、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によって定められることとされていることからすると、適切な代償措置を講ずる限り、法律で国家公務員の争議行為及びそのあおり行為等を禁止することも、憲法上許容されていると解している。このような考え方は、憲法上、労使間の団体交渉によって勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権の保障はなく、右の共同決定のための団体交渉過程の一環として予定されている争議権もまた、憲法上、当然に保障されているものとはいえないとする最高裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁)とは異なる見解であると解されるが、当裁判所は全農林警職法事件判決の判示しているところが相当であると思料する。

三  国公法九八条二項の限定解釈と原告らの行為の同条項違反の有無(争点2)について

国公法九八条二項について原告らの主張に係る限定解釈をしなくとも国公法九八条二項が憲法二八条に違反するものでないことは、最高裁判所が全農林警職法事件判決において判示するところであり、国公法八二条の適用に当たっても、同法九八条二項により禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、さらに、右規定に違反し違法とされる争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、右規定違反として同法八二条により懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い争議行為に限られると解すべきでないことは、前記最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決が判示しているのであって、当裁判所もまた右判断を相当と思料するものであるから、原告らの主張するような限定解釈論を採用することはできない。

本件職場大会に関する原告らの各行為が国公法九八条二項前段または後段に違反するものであることは前記(第四、一)のとおりであるから、本件各懲戒処分が違法であるということはできない。

四  国公法九八条二項と憲法二一条(争点3)について

本件職場大会に関する原告らの各行為が国公法九八条二項前段又は後段に違反するものであることは前記(第四、一)のとおりである。

原告らの右各行為は、たとえそれが言論、表現活動に当たるとしても、国公法九八条二項の禁止する違法な争議行為又はこれをあおる等の行為に該当し、公共の利益のために勤務する公務員の職務上の義務に違反して公共の利益を損なうおそれがあるから、憲法二一条で保障する表現活動の限界を逸脱するものであり、最高裁判所が、全農林警職法事件判決において、国公法一一〇条一項一七号が憲法二一条に違反するものでないことを判示している趣旨に徴しても、国公法九八条二項は憲法二一条に違反しないものというべきである。

したがって、原告らの右各行為が国公法九八条二項に違反することを理由に行われた本件各懲戒処分は憲法二一条に違反しない。

五  国公法九八条二項はILO八七号条約、ILO九八号条約、国際人権A規約に違反し、憲法九八条二項に違反するか否か(争点4)について

1  原告らは、ILO条約の解釈権限はILO条約勧告適用専門家委員会が有していることを前提に、同委員会が昭和五八年及び昭和五九年に公表した解釈によれば、国公法九八条二項はILO八七号条約、ILO九八号条約及び国際人権A規約に反し、憲法九八条に違反すると主張する。

2  証拠(甲あ第一〇二号証、第一〇三号証、乙あ第七七号証、第七八号証、第七九号証)によれば、別紙「ILO八七号条約等の正文及び条約勧告適用専門家委員会の報告」のとおり認められる。

3(一)  別紙「ILO八七号条約等の正文及び条約勧告適用専門家委員会の報告」(四)によればILO条約勧告適用専門家委員会は、ILO八七号条約三条、八条及び一〇条が争議権を保障していること、また、ILO九八号条約三条及び四条が公的機関の代表者としての資格で行為する公務員及び国民全体又はその一部の生命、個人的安全ないし健康に対してその中断が危険をもたらす不可欠業務に従事する公務員を除く一般の公務員について団体交渉権を保障していること、争議権及び団体交渉権を制限する場合には、その制限に見合う代償措置が完備されなければならないこと、以上のように解している。

(二)  しかし、

(1) 憲法九八条二項によって、我が国の国内法として法源性を認められるのは、「締結した条約」及び「確立された国際法規」であり、ここにいう「確立された国際法規」とは、国際社会一般に承認され、実行されている不文の国際慣習法を指し、未批准の条約や勧告、報告等は、右の「締結した条約」に当たらないことはもとより、「確立された国際法規」にも該当しないと解すべきである。ILO諸機関の見解は、ILO条約の解釈に関する一つの公式見解であるが、それはあくまでも政府に対し、ILO条約の趣旨に沿った国内法の整備を求めているにとどまるものであって、条約の解釈に関する疑義又は模擬紛争について下される国際司法裁判所の最終判断(ILO憲章三七条一項、二項)とは異なり、条約を解釈適用する際の法的拘束力ある基準として、法源性を有するに至っているとまでは解されない。ILO憲章三七条二項は、「この条の第一項の規定にかかわらず、理事会は、理事会によって又は条約の条項に従って付託される条約の解釈に関する紛争又は疑義をすみやかに解決すべき裁判所の設置に関する規則を作成し、且つ、承認のために総会に提出することができる。国際司法裁判所の判決又は勧告的意見で適用できるものは、この項によって設置される裁判所を拘束する。この裁判所が行った裁決は、この機関の加盟国に通報され、裁決に関する加盟国の意見書は、総会に提出されなければならない。」と規定しているが、この規定に照らしても右のように解することができる。

そして、ILO八七号条約三条が公務員の争議権を保障したものとは解されず、国公法九八条二項がILO八七号条約に抵触するものとはいえないことは、最高裁判所の判例(最高裁判所平成五年三月二日第三小法廷判決・判例時報一四五七号一四八頁、判例タイムズ八一七号一六三頁)とするところであり、当裁判所もまた右判断を相当と思料するものである。また、ILO八七号条約八条及び一〇条は別紙「ILO八七号条約等の正文及び条約勧告適用専門家委員会の報告」(一)のとおりであって、ILO八七号条約八条及び一〇条が公務員の争議権を保障したものと解することはできない。

そうすると、ILO八七号条約三条、八条及び一〇条が国家公務員について争議権を保障していると解することはできない。

(2) ILO九八号条約六条は、別紙「ILO八七号条約等の正文及び条約勧告適用専門家委員会の報告」(二)のとおり規定していて公務員を適用対象から除外しているから、同条約三条及び四条は公務員に団体交渉権を保障しているものと解することはできない。

(3) 以上によれば、ILO八七号条約三条、八条及び一〇条が並びにILO九八号条約三条及び四条を根拠に国公法九八条二項がILO八七号条約及びILO九八号条約に抵触しているという原告らの主張は、いずれもその前提を欠いているというべきであり、採用することができない。

4 国公法九八条二項が国際人権A規約八条三項に抵触する旨の原告らの主張は、ILO八七号条約が一般の公務員について争議権を保障していることを前提としているが、ILO八七号条約が公務員に争議権を保障していると解することができないことは前記(第四、五、3、(二)、(1))説示のとおりであるから、原告らの右主張はその前提を欠いており、採用することができない。

5 本件職場大会に関する原告らの行為が国公法九八条二項に違反したことを理由とする本件各懲戒処分が国際人権A規約八条一項(c)号に違反するという原告らの主張は、本件職場大会が国際人権A規約八条一項(d)号の「同盟罷業」に当たらないこと及び本件職場大会に関する原告らの行為が、国際人権A規約八条一項(c)号の「労働組合が自由に活動する権利」の範ちゅうに属するものであることを前提とするものである。

国際人権A規約八条一項(c)号及び(d)号は別紙「ILO八七号条約等の正文及び条約勧告適用専門家委員会の報告」(三)のとおりであり、同盟罷業は、労働組合の活動の一つというべきものであるのに、同(c)号が「労働組合が、(中略)自由に活動する権利」と規定しながら、同(d)号が「同盟罷業をする権利」と規定していることからすれば、同(c)号の規定する労働組合の活動とは同盟罷業を除く、それ以外の活動と解するのが相当である。

ところで、同盟罷業(英語の正文では「strike」)とは、一般に複数の労働者が共同して労働力の供給を停止する行為であると解されているが、原告らは、同(d)号の「同盟罷業」を「業務(公務)の正常な運営を停止させる業務(公務)の放棄」と解するべきである旨主張する。原告らのこの解釈は、「業務(公務)の正常な運営を停止させる」ことを同盟罷業に該当する場合の条件とするものであり、仮に複数の労働者が共同して労働力の供給を停止しても、それが他の労働者による労働力の補填等によって当該業務の運営が停止しなければ同盟罷業に該当しないと解する余地を生ぜしめる解釈であり、同盟罷業の意義を右一般的な解釈と比べて限定するものであるが、同(d)号の「同盟罷業」の解釈において右限定的な解釈を採るべき理由は認められないのであって、原告らの右解釈は独自の見解というほかなく、同(d)号の「同盟罷業」とは、複数の労働者が共同して労働力の供給を停止する行為をいうものと解するべきである。

本件職場大会は、前記(第二、一、5)のとおり、勤務時間に約二九分以内食い込むものとして開催され、少なくとも二九三四名の職員が当日勤務義務を有するにもかかわらず最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱したというものであるので、複数の労働者が共同して労働力の供給を停止した行為であって、同(d)号の「同盟罷業」に該当するものというべきである。そして、本件職場大会に関する原告らの行為は、前記(第四、一、1から4まで)のとおり、同盟罷業である本件職場大会の実施に向けられた行為又は自ら同盟罷業である本件職場大会に参加する行為である。したがって、本件職場大会に関する原告らの行為は同(d)号に規定されたところに該当するものであり、同(c)号の保障の範囲外のものである。

したがって、国公法九八条二項に違反したことを理由とする本件各懲戒処分が同(c)号に反する旨の原告らの主張は、その前提を欠いており採用できない。

六  国公法九八条二項違反を理由とする本件各懲戒処分と憲法二八条(適用違憲、争点5)について

原告らは、昭和四〇年人事院判定が実現されないまま二五年以上経過し、公務員の争議行為を制限する代償措置が画餅に等しいものとなった状況において、その正常な運用を要求して相当な手段態様で本件職場大会が行われたのに、これが国公法九八条二項に違反するとしてされた本件各懲戒処分は憲法二八条に違反する旨主張するので、この点について判断する。

1  昭和四〇年人事院判定の実施状況

昭和四〇年人事院判定の内容は、前記(第二、一、2、(三))のとおりであり、昭和四〇年人事院判定が出された昭和四〇年から本件職場大会が行われた平成三年一一月までの実施状況は、以下に認定するとおりである。

(一) 看護婦定員の増員の経過及び一人夜勤解消のための増員計画等

(1) 看護婦定員の増員の経過

乙あ第二〇号証、第二三号証の一、第二七号証の一及び第六五号証によれば、次の事実を認めることができる。

昭和四〇年人事院判定の判定事項のうち月間平均夜勤日数八日及び一人夜勤の廃止については、その実現のためには看護婦を大幅に増員する必要があったが、昭和四〇年人事院判定が出された昭和四〇年から本件職場大会が行われた平成三年に至るまでの全国の国立病院等の看護婦の定員の推移は、別紙「看護婦定員増員経過一覧表」のとおりである。

同表によれば、昭和四一年度から昭和四三年度までは三年間で合計四二〇人、一年当たり一四〇人の増員にとどまったが、昭和四四年度から昭和五二年度までは九年間で合計七〇四六人を増員しており、一年当たり七八三人(小数第一位を四捨五入)の割合で順調に増員していた。しかるに、昭和五三年度から平成三年度までは一四年間で三五三八人増員したにとどまり、一年当たりに換算すると二五三人(小数第一位を四捨五入)の増員にとどまった。これは後記(二)で述べる財政的制約があったためであった。

(2) 一人夜勤解消のための看護婦増員計画

乙あ第二七号証の一、二、第四七号証によれば、次の事実を認めることができる。

このように全国の国立病院等の看護婦の定員は昭和四四年度までは若干程度しか増えていないが、これは厚生省が後記(二)に述べる実情により直ちに大幅な増員計画を立案してこれを実現することができなかったことによる。

厚生省は、昭和四五年度以降、月間平均夜勤日数を八日とすることを前提に、一人夜勤の解消のため、次のとおり計画的に増員要求を行った。すなわち、昭和四五年度から昭和四七年度においては、国立病院については二人夜勤病棟の全体の看護単位に占める割合を五〇パーセントに、国立療養所については右割合を三三パーセントにする目標を立て、右三年でこれらに必要な人員をそれぞれ一〇二九人、一二六三人と算出してその増員を計画し(第一次計画)、それぞれ右計画どおり増員を達成し、昭和五〇年度から昭和五三年度においては、国立病院については右割合を七五パーセントに、国立療養所については右割合を五〇パーセントにする目標を立て、右四年間でこれらに必要な人員をそれぞれ一〇七一人、一二三六人と算出してその増員を計画し(第二次計画)、それぞれ右計画を上回る一〇九七人、一四一九人の増員を達成し、昭和五四年度から平成三年度においては、国立病院については右割合を一〇〇パーセントに、国立療養所については右割合を七五パーセントにする目標を立て、右一三年間でこれらに必要な人員をそれぞれ一一二二人、一五八二人と算出してその増員を計画し(第三次計画)、それぞれ九一六人、一二四九人の増員を達成した。

右によれば、第三次計画は、これを実績ベースで見ると、第一次計画及び第二次計画と同程度の増員を行っているが、これを達成するのに一三年間を要しており、第一次計画が三年、第二次計画が四年で達成しているのと比較すると、三倍ないし四倍の期間を要したことになる。これは、後記(二)で述べる財政的制約があったためであった。

(3) 一人夜勤の解消

証拠(乙あ第一八号証、第二九号証の四、第四〇号証の三)によれば、次の事実を認めることができる。

人事院が昭和三八年一〇月に行った調査における調査対象医療機関の看護単位のうち二人以上の夜勤体制であったものの割合は29.0パーセント(国立病院については23.8パーセント、国立療養所については34.7パーセント)にとどまったが、前記のとおり看護婦増員計画に基づいて増員が行われた結果、別紙「複数夜勤率経過一覧表」のとおり、その割合は次第に改善され、平成三年度には98.1パーセント(国立病院における割合は98.4パーセント、国立療養所における割合は97.8パーセント)となり、同年度までで一人夜勤はほぼ解消された。

(4) 月間平均夜勤日数の推移

証拠(乙あ第一八号証、第二九号証の四、第四〇号証の三)によれば、次の事実を認めることができる。

人事院が昭和三八年一〇月に行った調査における調査対象医療機関の看護婦等の月間平均夜勤日数は9.4日(国立病院については9.1日、国立療養所については9.8日)であったが、その後の推移は別紙「月間平均夜勤日数経過一覧表」の示すとおりであり、平成三年度の月間平均夜勤日数が8.8日(国立病院については9.0日、国立療養所については8.8日)であって、同年度までの改善の度合いは緩やかであったが、その後顕著に改善され、平成八年度の月間平均夜勤日数は8.0日(国立病院については8.2日、国立療養所については7.9日)となり、昭和四〇年人事院判定の示した月間平均夜勤日数八日の水準が達成された。

(二) 看護婦等の定員の増員に対する障害及び制約

後記の各証拠によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 政府は、昭和三七年一〇月一二日、当時の厳しい財政事情のために同日より当分の間は国家公務員の定員の一パーセントに満たない欠員についてはそれを補充しない旨の閣議決定を行ったが、昭和三八年九月四日、更に右欠員不補充の閣議決定を強化するため同日現在の欠員の補充を凍結する旨の閣議決定を行い、具体的には辞職による欠員の補充については原則として欠員の五割のみを補充し、国立病院等の看護婦については欠員の九割を補充することとされた。この方針は昭和四一年三月二九日及び昭和四二年三月二一日の閣議決定により延長された。このため、厚生省が昭和四一年度及び昭和四二年度に国立病院等の夜勤勤務の状況を改善する目的でした看護婦の増員の予算要求については、欠員の九割しか認められなかったが、重症心身障害児(者)収容施設の新設及び新生児看護業務の強化等に伴う増員が認められたので、昭和四二年度は国立病院等の看護婦の定員は全体として若干増加した(乙あ第三〇号証、第五三号証の三(一一〇頁、一一一頁)、第五四号証の三(四三頁)、第五五号証(五頁、八頁))。

なお、昭和四一年度には看護婦の不足が約四万人に達し、その解消に数年を要する見込みであり、国立病院に多数の看護婦を吸収すればその反面において公立病院及び一般病院における看護婦不足を助長することにもなるという状況であった(乙あ第五五号証(五頁)、第五八号証(一九頁)、第五九号証(二九頁))。

(2) 政府は、昭和四二年一二月一五日、前記欠員不補充の閣議決定を廃止したが、右同日、自衛官を除く国家公務員の既定定員について三年間に五パーセントを目処としてそれを計画的に削減すること(第一次定員削減計画(昭和四三年度から昭和四六年度まで))、昭和四三年度の定員策定に当たっては昭和四二年九月三〇日現在の凍結欠員を定員から削減すること、各省庁ごとの設置法による定員規制を改め、各省庁を通じた総定員のみを法定すること等を内容とする閣議決定を行った。このため、厚生省は昭和四三年度の国立病院等の看護婦の増員の予算要求についても看護婦の定員を増やすことはできなかったが、重症心身障害児(者)収容施設の新設及び新生児看護業務の強化等に伴う増員は昭和四三年度も認められたので、国立病院等の看護婦の定員は昭和四三年度も全体としては若干増加した。そして、前記昭和四二年一二月一五日の閣議決定に基づき、内閣の機関並びに総理府及び各省の職員の定員の総数の最高限度の法定が公務員数の膨張を抑制するという趣旨の下に、総定員法が昭和四四年五月一六日に公布され、同年四月一日にさかのぼって適用された。

(3) 厚生省は昭和四一年度から昭和四三年度までは国立病院等の看護婦の定員を容易に増やすことができなかったので、休憩室や仮眠室の整備などの物的設備の改善等に努めていたが、昭和四四年度においては、前記第一次定員削減計画の下において、重症心身障害児(者)及び進行性筋萎縮症病床の増床に伴う増員並びに新生児看護業務法制化に伴う増員として一八〇人の増員が認められた外、夜勤体制強化のための増員として二六一人の増員が初めて認められた(乙あ第五三号証の三(一一三ないし一一五頁)、第五八号証(一七頁、一九頁)、第五九号証(二九頁、三〇頁)、第六二号証(二〇頁)、第六三号証(一九頁)、第六四号証(一二頁)、第七一号証(一頁))。

(4) 国家公務員の定員削減計画は、前記第一次定員削減計画に引き続いて、第二次(昭和四七年から昭和四九年度まで)、第三次(昭和五〇年度から昭和五一年度まで)、第四次(昭和五二年度から昭和五四年度まで)、第五次(昭和五五年度)と継続され、第一次から第五次までで一般省庁の定員が二万四三九二人減少したが、国立病院等の職員の定員は、昭和四二年度末で四万四五一七人であったのが、昭和五五年度末には五万一七七一人(ただし、沖縄復帰特措法政令定員を除く。)と、七二五四人増員しており、国立病院等の看護婦の定員は前記の計画に従って前記のとおり増加している(乙あ第五三号証の三(一二六頁、一二七頁))。

定員削減計画の意義は次のとおりである。すなわち、「定員削減計画は、現在の総定員法下における定員管理の基礎となっている。総定員法下における定員管理のねらいは、政府全体の中での定員の再配分である。すなわち、行政需要の衰退部門・要合理化部門から定員を削減し、それをいわば一箇所にプールし、そのプールしたものを新規行政需要の強い部門に再配分することである。前者の部門から定員の原資をかき集める仕組みが定員削減計画であり、後者の部門での定員増の必要を把握し増員措置を講ずる仕組みが、毎年度の増員要求であり、その査定なのである。」(増島俊之著・行政管理の視点(乙あ第五三号証の三)一二四頁)。定員削減計画における削減対象となる定員は、各省庁の組織の中に既に設定された定員であり、新規の行政需要に対し必要となるであろう定員は対象外であって、国立病院及び国立療養所の医師及び看護婦の増員も対象外であった(乙あ第五三号証の三(一二五頁))。しかし、昭和五七年度から昭和六一年度までの第六次定員削減計画からはそれまでの削減の対象とされていなかった看護婦を含む医療職も削減の対象とされるようになった。

(5) 昭和五三年度増員要求からは、財政の健全化を図るため予算を厳しく見直すとした閣議了解により、各省庁概算要求基準の設定による増員要求数の抑制が行われるようになった。各省庁概算要求基準(増員要求枠)は、昭和五三年度が前年度要求数の二五パーセント減、昭和五四年度が前年度要求数の一五パーセント減、昭和五五年度が前年度要求数の二〇パーセント減、昭和五六年度が前年度要求数の一五パーセント減、昭和五七年度が前年度要求数の五〇パーセント減、昭和五九年度から平成二年度までが前年度要求数の七パーセント減、平成三年度が前年度要求数の1.5パーセント減であった。また、第六次定員削減計画(昭和五七年度から昭和六一年度まで)では全体として五パーセント程度の削減が計画された上、前記のとおりそれまで対象とされていなかった医師、看護婦等についても削減の対象とされ、国立病院等の看護婦の増員がそれまでより困難な状況となった。こういう中で、厚生省は前記のとおり国立病院等の看護婦の増員を計画し、設定された増員要求枠一杯の要求をし、前記のとおり国立病院等の看護婦の定員が増加した(乙あ第二七号証一及び二、第四八号証の一及び二、第七五号証の三(二六頁、一七二頁、一七三頁))。

(三) 夜勤に直接関連する諸条件の整備

後記の各証拠によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 業務の範囲の明確化及び夜勤業務の整理

国立病院の看護業務の範囲については、昭和三二年六月二七日医発第五三八号(最終改正昭和四〇年八月二四日医発第一〇二七号)各国立病院長あて厚生省医務局長通知別冊国立病院看護業務執務提要が、国立療養所の看護業務の範囲については、昭和三〇年八月二日医発第三一一号各国立療養所長あて厚生省医務局長通知における国立療養所看護婦業務基準が、それぞれ、昭和四〇年人事院判定以前から存在し、その看護婦の業務の範囲を定めていたが、厚生省は、昭和四〇年人事院判定の後の昭和四一年から毎年四月ころ開催の全国国立病院長会議及び全国国立療養所長会議において、右提要や基準に基づく業務の整理、業務の範囲の明確化を徹底するよう各施設を指導し、さらに、昭和六一年六月一〇日健医発第七〇七号の一各国立病院長、各国立療養所長、国立がんセンター総長及び国立循環器病センター総長あて厚生省保健医療局長通知において、国立病院・国立療養所看護業務指針を示し、厚生省は、右指針に基づき、各施設が速やかに看護基準及び看護手順等の見直しを行って、看護業務の内容の改善を図るように求めた(乙あ第四九号証の一及び二、弁論の全趣旨)

(2) 夜勤業務の遂行を容易にするための器材、器具等の導入

夜勤業務の遂行を容易にするための器材、器具等については、昭和四〇年度から製氷器の導入のための予算措置が、昭和四九年度から電子体温計及びエアーパットの導入のための予算措置が、昭和五三年度から輸液監視装置の導入のための予算措置が、昭和五四年度から尿便器洗浄装置の導入のための予算措置が、昭和五五年度から患者移載装置の導入のための予算措置が、昭和五六年度から血液加温装置の導入のための予算措置が、昭和六三年度から血圧自動監視装置の導入のための予算措置が、平成元年度から自動血沈計の導入のための予算措置が、平成三年度から蓄尿容器洗浄装置の導入のための予算措置が、それぞれ講じられた(乙あ第五〇号証の一)。

(3) 休憩室、仮眠室その他の設備の改善、整備

仮眠室については、昭和四〇年人事院判定の出された昭和四〇年以前から、病院の建替え整備に合わせて看護婦更衣棟を建ててその中に仮眠室を設けるという方法で整備がされてきたが、昭和四九年度からは仮眠室に冷房設備を設置し、昭和五三年度からは木造等老朽化した看護婦更衣棟を建て替えて仮眠室も整備してきた。また、休憩室については昭和四九年度からソファーを設置した外、外科病棟の新築、改修の際に整備してきた。

(乙あ第五〇号証の一)

(4) 夜勤時、特に一人夜勤における処置、連絡等を容易にする方策

昭和四八年から医師との連絡のためにポケットベルを導入した。また、患者との連絡のためのナースコールについては、病院の建替え時に順次整備され、昭和五四年からはこれを順次更新してその高機能化が図られている。

(乙あ第五〇号証の一)

(5) 夜勤交替時の通勤事情に即応する対策

人事院規則九-三〇(特殊勤務手当)の一部が昭和五二年六月二八日改正され、同年四月一日にさかのぼって、通勤手当とは別に、夜間看護手当が加算される措置が講じられ、本件職場大会の行われた平成三年一一月当時におけるその加算額は、通勤距離が片道二キロメートル以上五キロメートル未満の職員については三八〇円、同五キロメートル以上一〇キロメートル未満の職員については七六〇円、同一〇キロメートル以上の職員については一一四〇円であった(乙あ第五一号証の一及び二、第六八号証の三)。

(6) 看護の補助業務を行う看護助手の充実

昭和四〇年人事院判定の出された昭和四〇年度の看護助手の数は二八五三人であったが、本件職場大会の行われた平成三年度の看護助手(ただし、賃金職員を含む。)の数は五二九七人であった(乙あ第五二号証)。

(7) その他の夜勤に直接関連する諸条件の改善措置

厚生大臣は、昭和四〇年六月二一日人事院総裁に対して「医療職公務員の給与改善について」と題する要望を行い、その中で夜間勤務の看護婦等の処遇を改善するため、夜勤手当の支給率を一〇〇分の二五から一〇〇分の五〇に引き上げることを要望した(乙あ第六六号証)。

人事院規則九-三〇(特殊勤務手当)の一部が同年一二月二七日改正され、同年八月一日にさかのぼって看護婦等の夜間看護手当が新設された(乙あ第六七号証)。

(四) 産後六箇月程度を基準とする夜勤免除の措置

人事院規則一〇-七(女子職員の健康、安全及び福祉)の一部が昭和四八年一二月二〇日改正され、妊娠中の女子職員の外、産後一年を経過しない女子職員についても、その請求があれば、その者の業務を軽減し又は他の軽易な業務に就かせなければならないこと等とされた(当時の人事院規則一〇-七第九条)が、厚生大臣官房長は昭和四九年二月一日各内部部局の長等に対して右改正の事実を告知し(昭和四九年二月一日厚生省発厚第一号)、厚生省医務局管理課長は昭和五〇年一二月二三日各国立病院長、各国立療養所長及び国立がんセンター総長に対して「妊娠中又は出産後の業務軽減等については、昭和四九年二月一日厚生省発厚第一号(官房長通ちょう)の趣旨に則り改善に努めること」を通知した(乙あ第三一号証の、一及び二)。

また、人事院規則一〇-七(女子職員の健康、安全及び福祉)が昭和六一年三月一五日一部改正され、妊娠中の女子職員及び産後一年を経過しない女子職員から請求があった場合には、各省庁の長は、深夜勤務又は正規の勤務時間等以外の時間における勤務をさせることができないこととされ(第七条)、厚生省は昭和六三年度から妊産婦の夜勤免除に伴う代替要員を任用するための経費を予算化した。その額は昭和六三年度については二億五四一四万八〇〇〇円、平成元年度は三億五四二八万六〇〇〇円、平成二年度は三億七一八二万九〇〇〇円、平成三年度は四億二一〇〇万一〇〇〇円であった。

(乙あ第六九号証)

(五) 休暇、休息時間の明示

厚生省は、昭和四〇年人事院判定が出された後、休憩時間及び休息時間の明示を実現するように各医療機関に指導をした(乙あ第五五号証、第五六号証、第五七号証)。

人事院規則一五-一(職員の勤務時間等の基準)が昭和四五年四月一〇日一部改正され、それ以前は正規の勤務時間四時間につき一五分の休憩時間を置くこととされていたものが、おおむね四時間の連続する正規の勤務時間ごとに休憩時間を置くことができるようになり、休憩時間及び休息時間の置き方が弾力的に運用できるようになった(乙あ第七〇号証)。

2  代償措置が本来の機能を果たしているといえるか否かの判断基準

全農林警職法事件判決が前記のように判示しているところからすると、国家公務員の労働基本権に対する制限の代償として講じられている代償措置は、争議行為を禁止されている国家公務員の利益を国家的に保障しようとする現実的な制度であり、国家公務員の争議行為の禁止が違憲とされないための強力な支柱であるから、それが十分にその保障機能を発揮しうるものでなければならず、また、そのような運用が図られなければならず、仮にこの代償措置が迅速公平にその本来の機能を果たさず実際上画餅に等しいと見られる事態が生じた場合には、国家公務員がこの制度の正常な運用を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為に出たとしても、それは憲法上保障された争議行為であるというべきである(全農林警職法事件判決の岸裁判官及び天野裁判官の追加補足意見)。

勤務条件に関する行政措置要求制度は、右代償措置の一環をなすものであり、この要求があったときは、人事院は、必要と認める調査、口頭審理、その他の事実審査を行い、一般国民及び関係者に公平なように、かつ、国家公務員の能率を発揮し、及び増進する見地において、事案を判定しなければならないとされている(国公法八七条)。この判定がされたときは、国家公務員がした勤務条件に関する行政措置の要求は、判定において正当であるとされた限度において、その実現が国家的目標に昇華されるのであり、人事院が判定の結果採るべき措置(国公法八八条)を採った場合は勿論のこと、この措置を採らなかった場合であっても、国権の最高機関である国会といえども判定の結果を尊重しなければならないし、内閣は判定の結果を尊重し、その実行に真しに取り組まなければならず、行政措置要求をした国家公務員の所轄庁はその実行に最大限の努力を尽くさなければならないというべきである。

このように、人事院が行う判定は重要な意義を有するが、その実行には国家財政による裏付けを必要とするから、国家財政が悪化し緊縮予算を組まざるを得ないときには制約を受けることを免れないし、また、それ故に国家の他の諸施策の実施の必要性・緊急性との比較検討を要し、さらに、その実行により社会に与える影響を考慮することを要するから、その実行には財政的、政治的、社会的制約が不可避的に伴うことを否定することはできない。これらの制約のために判定の実行まで長期間を要する場合が生ずることもあり得るのであり、このような場合には、判定の実行が延引しているという結果だけを見て、行政措置要求制度が本来の機能を果たしていないと即断することは相当ではなく、判定後に執られた措置の内容、その実績、措置の計画性・継続性、財政的、政治的、社会的制約の内容・程度、判定後経過した期間等を総合考慮し、判定を受けて行われた実績があり、以後も必要な努力が重ねられ、判定が実行される可能性が相当程度存在するものと認められるときは、勤務条件に関する行政措置要求制度が代償措置としての本来の機能を果たさず、実際上画餅に等しいと見られる事態が生じたということはできない。他方、当局側は財政的、政治的、社会的制約の下で誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くす必要があり、これを怠ったときには、判定の実行の可能性が相当程度存在している場合であっても、それが延引している責任の一端があるというべきであるから、判定の早期実行を求めて相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で行われる争議行為が憲法上保障された争議行為に当たる場合があり得ると解されるが、行政措置要求制度が本来的機能を喪失した場合と異なり、延引しているだけであるから、右は当局側の怠慢の程度が著しい場合に限って、憲法上保障された争議行為にあたるものと解するのが相当である。

3  本件についての判断

前記(第四、六、1、(二))認定の事実によれば、次のとおりである。

(一) 昭和四〇年人事院判定がされた翌年度である昭和四一年度から昭和四三年度までは欠員不補充の閣議決定を受け、また、昭和四一年度における我が国全体での看護婦の不足数は約四万人に達していたのであり、その解消に数年を要する見込みであったことから、国立病院に多数の看護婦を吸収すればその反面において公立病院及び一般病院における看護婦不足を助長することにもなるという事情もあったため、重症心身障害児(者)収容施設の新設及び新生児看護業務の強化等に伴う増員が認められたにとどまったが、昭和四四年度から昭和五二年度までは九年間で合計七〇四六人を増員し、一年当たり七八三人の割合で順調に増員していた。

(二) これに対し、昭和五三年度から平成三年度までは一四年間で三五三八人増員したにとどまり、一年当たりに換算すると二五三人の増員にとどまったのであって、このことが昭和四〇年人事院判定の示した水準への到達を更に長期化させた大きな要因であることは否定できない。殊に、昭和五七年度から平成二年度までの間の増員数の減少が顕著である。そこで、何が原因となって右のとおり増員数が減少したかが問題となる。昭和五三年度から増員要求枠が設定されて増員が抑制され、昭和五七年度から昭和六一年度までの第六次定員削減計画からはそれまで削減の対象とされていなかった看護婦を含む医療職も削減の対象とされたという事情があり、前記の増員数の減少がこのことに起因するものであることは理解できるが、厚生省が昭和五七年度から平成二年度までの間に所管する職種についてそれぞれどのような定員削減計画を立て、どのように増員要求をしたのか、その中で看護婦の定員削減及び増員をどのように位置づけたのか、昭和四〇年人事院判定が長期間経過してもなお実行できない状況の中で、看護婦の増員を右のように抑えざるを得なかったことについていかなる切実な事情があったのかに関する主張立証はされておらず、厚生省の自助努力の実情がよくわからないため、シーリングの枠の中で目一杯増員要求したとの乙あ第二七号証の二の記載だけでは、厚生省が看護婦の増員のために可能な限りの努力を尽くしたことの証明は不十分といわざるを得ない。

(三) しかしながら、昭和五三年度以降国家財政の悪化のために増員要求枠が設定された等、厳しい定員抑制策が実施され、以後平成三年まで国家の厳しい財政事情の下、右の政策が一貫して継続されていたために、看護婦等の定員の大幅増員が困難であったことは事実である。また、昭和四〇年人事院判定においては、一人夜勤の解消と月間平均夜勤日数の減少が判定されており、この二つの課題のどちらも看護婦等の大幅な増員を必要としているため、両者を同時に実現することは不可能であり、いずれかの課題に重点的に取り組む必要があった。右のような状況の下で、厚生省は、昭和四五年度から平成三年度まで第一次ないし第三次増員計画を立てて増員要求をし、別紙「看護婦定員増員経過一覧表」のとおり看護婦定員が増員され、その結果、別紙「複数夜勤率経過一覧表」の示すとおり、平成三年度までに一人夜勤がほぼ解消されたが、月間平均夜勤日数については、別紙「月間平均夜勤日数経過一覧表」のとおり9.4日から8.8日にまで改善されたにとどまった。したがって、厚生省としてはまず、負担が大きい一人夜勤の解消を実現するのに必要な看護婦等の増員に努め、平成三年度までにこれを実現したということができるのであって、その反面において、昭和四〇年人事院判定に示された月間平均夜勤日数八日の水準を容易に実現することができなかったことはやむを得なかったというべきである。

(四) 右に述べたことに夜勤に関する諸条件が改善されたことを併せて考えると、厚生省をはじめとする関係各機関は、昭和四〇年人事院判定が示した一人夜勤のみならず月間平均夜勤日数の減少についても、その実現に向けて、計画的に努力し、本件職場大会当時、前者については実現するに至っていたものであり、本件職場大会実施当時、以後もその努力を継続して合理的期間内に月間平均夜勤日数の減少の点も実行できる相当程度の可能性が存在したものということができる。したがって、昭和四〇年人事院判定が実行しなければならない目標としての意味を失ってしまったわけではないから、行政措置要求制度の代償措置としての本来の機能は、本件職場大会当時においてもなお失われていなかったものというべきである。前記のとおり、昭和五七年度から平成二年度までの間の増員数の顕著な減少についての説明が不十分であるから、厚生省をはじめとする関係各機関が真しに法律上及び事実上可能な限りの努力を尽くしたものと認めることはできないが、当局側の怠慢の程度が著しいということはできない。

(五) また、本件職場大会の規模及び態様は、前記(第二、一、5)のとおり、全国の国立病院等の支部において、組合員約二万五〇〇〇名が参加して、勤務時間に約二九分以内食い込む方針で職場大会を開催し、そのうち、少なくとも二九三四名の職員が、当日勤務義務を有するにもかかわらず、最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱したというものであって、規模が大きく、また、午前八時三〇分の勤務開始時刻から最大で二七分間勤務に就かなかったというのであるから、国立病院及び国立診療所での診療を必要とする国民に何らの支障が生じなかったものとは認めることができず、その間国民の健康にかかわる医療に従事する職責を果たさなかったことを軽視することはできないのであって、本件職場大会は相当な手段・態様でされたものということはできない。

(六) 以上によれば、本件職場大会は憲法上保障された争議行為であるということはできない。

七  本件各懲戒処分が懲戒権を濫用したものとして無効となるか否か(争点6)について

1 国家公務員について国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか及び懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして違法とはならないと解すべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決(民集三一巻七号一一〇一頁)、最高裁判所平成元年九月二八日第一小法廷判決(判例時報一三四九号一五一頁))。

そこで、右の見地に立って、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用してなされたものと認められるか否かについて検討する。

(一) 本件職場大会の目的、動機について

本件職場大会の目的は、前記(第二、一、3、(二))のとおり、日本医労連の掲げた国立医療機関の統廃合・移譲反対、看護婦確保法の制定等の統一課題並びに全医労の独自要求である①平成四年度看護婦増員抜本策の追求、②看護婦増員年次計画施設長確認の実行、③公的医療機関並みの人員配置要求、④完全週休二日制、公務一体の本格実施、⑤賃上げ改善部分の早期確定と支給及び⑥賃金職員の定員化と処遇改善であった。

また、前記(第二、一、5、(一)、(3))のとおり、原告Jが南福岡支部における職場大会の冒頭で挨拶をし、「人事院判定後二六年経過した。定員削減はやるが夜勤改善は遅れている。看護婦は定年まで働けないような厳しい状況である。病棟の保安体制は万全であるので最後まで集会に参加してほしい。」旨演説したこと及び乙あ第八号証(二頁)及び証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書六項から九項)からすれば、本件職場大会の右目的のうち、①平成四年度看護婦増員抜本策の追求、②看護婦増員年次計画施設長確認の実行、③公的医療機関並みの人員配置要求は、昭和四〇年人事院判定の実施を求めることに由来するものでもあったことが認められる。

さらに、甲あ第一六号証の一及び二、第一八号証並びに証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書九〇項から九七項)によれば、平成二年一二月ころ、全国の国立病院等の長と全医労の各支部との間に一看護単位あたりの夜勤人員を複数とし、かつ、一人当たりの一箇月の夜勤回数を八回とするために必要な看護婦の増員数が確認されたことが認められ、それによれば、この当時、当局側も看護婦等の増員が必要であることを認識していたものと認められる。

加えて、甲あ第四五号証の一ないし三、第四六号証の一ないし三、第四七号証の一、二によれば、平成三年二月ないし三月ころ、国立病院医療センター院長等が、厚生大臣及び人事院総裁等に対して、看護婦の勤務条件を改善するように上申していた事実が認められる。

以上の事実によれば、本件職場大会の目的は、前記のとおり多岐にわたっていたものの、昭和四〇年人事院判定の内容のうち月間平均夜勤日数八日の点については本件職場大会が実施された平成三年当時実現されていなかったことを踏まえて、看護婦増員について抜本策を講ずることを求めることを重要な柱としていたものというべきであり、このような要求自体は無理からぬものであり、相当なものであったということができる。

(二) 昭和四〇年人事院判定の長年にわたる未実施について

昭和四〇年人事院判定を受けて、厚生省当局が厳しい財政的、政治的、社会的制約の下で、計画的、継続的に看護婦定員の増員に努め、段階的に右判定を実施してきたことは、前記(第四、六、3)のとおりであるから、本件各懲戒処分が直ちに不合理、不公平であるということはできない。

(三) 本件職場大会の規模、態様について

本件職場大会の規模及び態様は、前記(第二、一、5)のとおり、全国の国立病院等の支部において、組合員約二万五〇〇〇名が参加して、勤務時間に約二九分以内食い込む方針で職場大会を開催し、そのうち、少なくとも二九三四名の職員が、当日勤務義務を有するにもかかわらず、最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱したというものであった。

これを原告J、原告K及び原告Lの所属する職場ごとに見ると、原告Jが本件職場大会当時所属していた国立療養所南福岡病院では、平成三年一一月一三日午前八時一五分から午前八時五三分まで、勤務時間内に二三分以内食い込んで、南福岡病院職員昇降棟前において、本件職場大会が実施され、全医労南福岡支部の組合員二一三名が参加し、そのうち少なくとも九名が午前八時三〇分から午前八時五三分まで一斉にその職務を放棄したものであり(第二、一、5、(一)、(3))、原告Kが本件職場大会当時所属していた国立療養所沖縄病院では、同日午前八時一五分ころから午前八時四五分ころまで、勤務時間内に一五分間食い込んで、沖縄病院玄関前において本件職場大会が実施され、全医労沖縄病院支部の組合員のうち少なくとも六〇名が参加し、そのうち少なくとも四名が午前八時三〇分から午前八時四五分まで一斉にその職務を放棄したものであり(第二、一、5、(二)、(3))、原告Lが本件職場大会当時所属していた国立療養所西多賀病院では、同日午前八時一五分から午前八時四九分まで、勤務時間内に一九分ないし二三分食い込んで、西多賀病院外来玄関前において、本件職場大会が実施され、全医労西多賀支部の組合員約六四名が参加し、そのうち少なくとも四九名が午前八時三〇分から午前八時四九分ないし五三分まで一斉にその職場を放棄し、西多賀病院の事務部長が大会参加者に対し、勤務時間前の同日午前八時一八分及び一九分に、構内の無許可使用を理由に解散命令を発し、勤務時間に入った午前八時三〇分、三一分及び三六分の三回にわたり、本件職場大会は時間内の職場大会で違法であるとの理由による解散命令及び就業命令を発したが、大会参加者らはこれを無視して本件職場大会を敢行したものである(第二、一、5、(三)、(3))。

また、甲あ第二八号証及び証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書一五五項)によれば、本件職場大会に関連して、全医労の本部役員及び地方協議会役員専従者二六名並びに支部長一四七名の合計一七三名が戒告処分を受け、支部副支部長及び書記長の合計三九九名が文書訓告を受け、本件職場大会の参加者二五一八名が文書厳重注意を受けたことが認められる。

これらの事実からして本件職場大会は規模として非常に大きいものであり、その影響は全国の国立病院、国立療養所等に波及し、看過できないものであったし、これを原告J、原告K及び原告Lの所属する職場ごとに見ても、右のとおり、国立療養所南福岡病院では二一三名、国立療養所沖縄病院では少なくとも六〇名、国立療養所西多賀病院では約六四名が本件職場大会に参加し、相当数の者が職場放棄まで行ったものであり、それぞれその影響は重大であったと認められる。また、実施時間は右のとおり比較的短時間ではあったが、争議行為の実質を有するものであり、その間、参加した職員は国家公務員の職務専念義務に違反して本来の職務を行わなかったものであって、正常な業務が阻害されていないといえないことは明らかである。しかしながら、暴力的手段によって行われたなどの事実は認められない。

(四) 本件職場大会の影響について

乙あ第一七号証の一ないし三によれば、本件職場大会による影響として、国立水戸病院では、①夜勤者から日勤者への申し送りが正常に行われなかったこと、②外来診療の勤務に就いている看護婦のミーティングが正常に行われず、そのため必要事項の伝達が正常に行われなかったこと、③外来診療の診療器具の準備等が正常に行われなかったこと、国立栃木病院では、①夜勤者から日勤者への必要事項の申し送り、環境整備(患者の状態、病室環境などを把握すること)、病棟カンファレンス(各病棟婦長が病棟の患者数、入退院患者の紹介、患者の手術、検査、症状に注意を要する患者などの伝達、その他管理事項の伝達)が正常に行われなかったこと、②外来診療の準備が正常に行われなかったこと、国立横浜病院では診察の準備、カルテを並べる作業等が正常に行われなかったこと、以上のとおり認められる(甲あ第八二号証の一ないし三はこの認定を左右するには足りない。)。

このような影響はいずれも国立病院の利用者である国民に対して不利益を及ぼしたものということができる。

(五) 当局の警告について

前記(第二、一、4、同5、(一)、(2)、同5、(二)、(2)、同5、(三)、(2))のとおり、当局は本件職場大会の実施に先立ち、数度にわたって、本件職場大会が違法な行為である旨及びそれを実施しないように警告しているが、それらの警告にもかかわらず、原告らは本件職場大会を実施させ、また、自ら職場を離れ本件職場大会に参加した。

(六) 本件各懲戒処分による不利益について

原告らに対する本件各懲戒処分はいずれも戒告であり、戒告は、職員が国公法八二条各号の一に該当する場合において、その責任を確認し、およびその将来を戒めるという処分である(人事院規則一二-〇(職員の懲戒)四条)。そして、一般職の職員の給与に関する法律八条六項は「職員が現に受けている号俸を受けるに至った時から、一二月をくだらない期間を良好な成績で勤務したときは、一号俸上位の号俸に昇給させることができる。」と規定し、人事院規則九-八(初任給、昇格、昇給等の基準)三四条は、右昇給は、「昇給させようとする者の勤務成績について、その者の職務について監督する地位にある者の証明を得て」行わなければならず(同条一項)、「その他人事院の定める事由に該当する職員については、その勤務成績についての証明が得られないものとして取り扱うものとする」旨規定しており(同条二項)、「人事院規則九-八(初任給、昇格、昇給等の基準)の運用について」(通知)(昭和四四年五月一日、給実甲第三二六号)は、第三四条関係二項五号で右の「その他人事院の定める事由に該当する職員」とは、「現に受ける俸給月額又はこれに相当する俸給月額を受けるに至った日からその日以降を良好な成績で勤務したものとした場合に得られるその者の次期昇給の予定の時期までの間に、停職、減給又は戒告の処分を受けた職員とする」旨規定しており、また、人事院規則九-八(初任給、昇格、昇給等の基準)三七条一項は特別昇給について定め、同規則三八条五号は、「懲戒処分を受け、当該処分の日から一年を経過しない職員」には特別昇給の規定は適用しない旨規定している。

以上によれば、戒告処分を受けた職員はその後の直近の昇給予定時期において、当然に昇給を受けることができない法的地位におかれ、また、処分後一年間は特別昇給の対象から除外されるという法的地位におかれることになるので、これに伴う経済的不利益は、何らかの回復措置が執られない限り職員が退職するまで継続累積することとなる。

また、甲あ第二九号証及び証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書一六一項)によれば、本件職場大会に関連して戒告処分を受けた者については昇給が三箇月延伸されたことが認められる(なお、甲あ第八六号証には、本件職場大会に関連して戒告処分を受けた者三名の経済的損失の額及び本件職場大会に関連して戒告処分を受けた全国一七三名の者の経済的損失額の推測による総額が算出されているが、前三名についてはそれが原告のものであるか否か明らかではなく、原告らに対する本件各懲戒処分の適法性を審理する本件において直接これを考慮することはできない。)。しかし、このような不利益があるとしても、戒告は国公法の定める懲戒処分の中では最も軽い処分であって、職員が国公法八二条各号の一に該当する場合において、職員に与える不利益の程度は他の懲戒処分に比して軽微である。

(七) 本件各懲戒処分以前の職場大会を理由とする処分について

証拠(甲あ第二八号証、証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書一五五項から一五九項)、乙あ第二号証及び第三四号証の一(三六頁、三九頁から四〇頁))によれば、本件職場大会以前に全医労が行った職場大会に関する処分について、以下の事実が認められる。

昭和四八年四月二七日に勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の委員長(一名)に対しては減給一〇分の一、副委員長及び書記長(各一名)に対し、戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、中央執行委員(四名)、執行委員(七名)、地方協議会の三役(一八名)及び支部長等(一三一名)に対しては文書訓告が、地方の支部三役(二七〇名)に対しては文書厳重注意が、その他の単純参加者(約七八〇〇名)に対しては口頭厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和四九年四月一一日に勤務時間に二九分間及び同月一三日に同じく一時間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部中央執行委員(三名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会の三役(二四名)及び支部長(一四二名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(九二三一名)に対しては口頭注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和四九年一一月一九日、昭和五〇年四月一七日及び同年五月九日にそれぞれ勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部中央執行委員(三名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会の専従者(六名)及び支部長(一九一名)に対しては文書訓告が、その他の単純参加者(九七八九名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五〇年一一月一八日、昭和五一年三月三〇日及び同年四月二〇日にそれぞれ勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員(四名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、支部長(一八九名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(一〇六八七名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五一年一一月五日及び昭和五二年四月一五日にそれぞれ勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員(五名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会専従者及び支部長(合計一九七名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(一〇六三一名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五三年四月二五日に勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員(五名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会専従者及び支部長(合計一八二名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(六六五九名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五四年四月二五日に勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員(六名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会専従者及び支部長(合計一八六名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(七二四八名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五五年四月一六日に勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員(五名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方協議会専従者(六名)及び支部長(一八四名)に対しては文書訓告が、地方の支部三役(三八一名)及びその他の単純参加者(七五一一名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

昭和五六年六月四日に勤務時間に二九分間食い込んで行われた職場大会に関しては、全医労の本部役員及び地方協議会専従者(合計一三名)に対して戒告の懲戒処分がそれぞれなされたが、地方の支部三役(四四九名)に対しては訓告が、その他の単純参加者(三七七七名)に対しては厳重注意が、それぞれなされたに止まった。

これに対して、本件職場大会に関しては、全医労の本部役員及び地方協議会専従者(合計二六名)並びに支部長(一四七名)に対し、戒告の懲戒処分がそれぞれなされ、支部副支部長及び書記長(合計三九九名)に対しては文書訓告が、その他の単純参加者(二五一八名)に対しては厳重注意が、それぞれなされた。

また、本件職場大会以前の職場大会に関する訓告及び厳重注意については勤勉手当のカットはなされなかったが、本件職場大会に関する訓告及び厳重注意については、勤勉手当のカットが行われた。

(八) 原告らが懲戒権濫用の根拠として主張する他の点について

(1) 第三、六、1、(七)(本件各懲戒処分は懲戒権者である病院長の意思を無視して人事院夜勤判定を四半世紀も実施しなかった厚生省が病院長に命じたものであること)について

乙第二七号証の二(六四五頁から七〇頁まで)によれば、本件各懲戒処分の行われた平成四年三月一九日のおよそ一週間前ころに、厚生省事務次官を長とし、局長ら、部長ら数名の合計一〇名前後の人員で構成される懲罰委員会が構成され、同委員会において本件職場大会に関して処分を行うことが決定され、それが各地方医務局に指示され、各地方医務局から各国立病院等に指示されたことが認められる。右事実からすると、右懲罰委員会は、厚生大臣の委任を受け、又はその意思決定を行う補助機関として右決定を行い、厚生大臣又はその委任を受けた機関が上級庁の指揮、監督権の発動として右指示をしたものと推認することができる。そうであるとすれば、このような指示がされたといっても、本件各懲戒処分はあくまでも被告処分者らが原告らの懲戒権者として行ったものであり、右のような指示が行われることは行政組織の構造上それを不当視すべきものではなく、これらの事実から本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠いていたことになるものではない。また、前記(第二、一、5)争いのない事実等、証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書五一項から五二項)及び甲あ第二八号証によれば、本件職場大会は全国の国立病院等の二二九支部において行われたが、そのうち支部長が処分されたのは一四七の支部であったことが認められる。原告らはこの事実を根拠に全国の国立病院等の各病院長は本件職場大会に関し処分を行うべきであるという意見を持つはずがない旨主張するが、右事実からそのようなことを推認することはできないのであり、本件各懲戒処分が処分権者である被告処分者らの意思に反して行われたものであるとはいえないのであるから、この点に関する原告らの主張は認められない。

(2) また、第三、六、1、(九)(厚生省は全医労を敵視し、組織攻撃を行おうとしていたこと)について

国公法九八条二項は一切の争議行為、そのあおり等の行為を禁止しているから、争議行為のあおり等の行為が、不利益取扱の禁止を定める同法一〇八条の七にいう「正当な行為」に当たると解する余地はないが、原告らは、同法一〇八条の七の適用を主張するのではなく、当局が意図的に重い処分を選択したとして、これが懲戒権濫用の根拠となると主張する趣旨と解されるので、以下検討する。

原告らはその根拠として平成二年三月付け「国立病院・療養所改革検討会中間報告」と題する文書(甲あ第八八号証)を挙げている。しかし、同書面には、「まず、管理者側の体制を整備し、一貫した戦略の下に、長期間に亘り、一つ一つ事態を改善していかねばならない問題でもある。」、「郵政の場合は、確認事項破棄の通達を出した時点で、当局側に一枚岩の管理体制が確立されており、一丸となって、どのような圧力にも屈せず確認書破棄闘争をやり抜くという組織的な合意が形成されていたため、結果的に成功したものである。」、「郵政省の場合、前述した通り、管理体制を固めた後に、まず、出勤簿にきちんと判を押させる、規則に違反するビラ貼り、構造物の設置は認めない、勤務中にゼッケンの着用は認めない等の身近なささいなことから職場内秩序の回復・正常化を始めている。」等の記載があることが認められるが、他方、「正常な労使関係を築いていくことは、極めて緊急度の高い課題であるが、同時に、中途半端な対応や一貫した方針に基づかない一時的な対応は、かえって事態の悪化を招くおそれが強い。」、「ウ 確認書 国公法上は、交渉には団体協約を締結する権利を含まないとしているにもかかわらず、実際には、交渉内容は、確認事項として当局側の署名押印とともに記録・保存され、以後の当局側の行動を事実上拘束しているのが一般的である。しかも、交渉範囲を逸脱した事項について、多人数、徹夜交渉、糾弾方式によって半ば強制的に確認されているのが実情である。」、「(3)職場内秩序 各施設の現場においては、職員組合の影響は極めて強く、例えば、再編成反対の構築物が玄関脇に設置されていたり、受付に署名簿が置かれていたりしている。事実上、組合側の都合・論理が管理者側の指揮・命令より勝っているといわざるを得ない。勿論、国立病院・療養所の日常業務が無秩序に行われているわけではなく、医の倫理に支えられた医師を中心とする秩序の中で、看護婦等の職員もそれなりに精勤している。この点で、旧国鉄の末期症状とは明らかに異なっている。しかしながら、従来からの非効率的なシステムの改革や再編成のような政策課題に対しては、強い拒否反応があり、事実上、当局の意思が全く無視されている状態となっている。」、「正常な労使関係は、サービス産業である病院事業にとって極めて大きな意味をもつ。」、「省全体で取り組む心構え」、「責任ある専任の担当部署の設置と窓口の一本化」、「職員組合担当部署と人事担当部署の峻別」、「専門家の養成」、「一貫した人事政策」、「現場管理職の労務管理研修の抜本的強化」、「長期戦略の確立」、「労使協議指針の策定(労使協議の正常化)」等の記載があることが認められ、これらを併せて見ると、この書面は労使関係、特に労使協議の当時の状況及びその原因を分析し、労使関係、特に労使協議を正常化(国公法に合致するようにすること)するための対策を示したにとどまるものであって、これによって当局が全医労を敵視・嫌悪していることまでを認めることはできない。また、原告らはこの点について甲あ第九二号証(平成五年二月一九日付け九州管内事務(部)長会議議事録)及び甲あ第九三号証(平成九年八月二二日付け事務連絡 近畿地方医務局職員課長作成)を挙げるが、これらは本件職場大会及び本件各懲戒処分以後に作成されたものであって当時の当局の意図を直接明らかにするものではなく、また、その内容においても一般的な労務対策を内容とするものというべきものであって、この書面によって、本件各懲戒処分が行われた当時、当局が全医労を敵視・嫌悪していたことまで認めることはできない。したがって、これらの証拠から厚生省が全医労を敵視し、組織攻撃を行おうとしていたとの事実を認めることはできず、その他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠はないので、これも本件各懲戒処分が濫用に当たるとする根拠とすることはできない。

(3) 第三、六、1、(三)(時間内職場大会の実施は職場組合員の要求であったこと及び具体的処分理由を欠くこと)について

本件各懲戒処分に具体的処分理由を欠くとの主張は、前判示(第四、一)に照らして採用できず、また、仮に本件職場大会が職場組合員の要求であったとの事実が認められるとしても、それは、本件各懲戒処分を社会観念上著しく妥当性を欠くものとするものではない。

(4) 第三、六、1、(四)(厚生省は時間内職場大会設定日前の交渉を拒否したこと)について

証人渡辺伸仁の証言(第一四回証人調書第一三三項から第一三七項まで)によれば、全医労は、厚生省との窓口折衝において本件職場大会が行われた平成三年一一月一三日以前に厚生省保健医療局長との団体交渉を求めたが、厚生省は、それに対して同月二〇日に行う旨回答し、同月一三日以前の交渉を行うことはできない旨回答したことが認められる。原告らは、右団体交渉が行われれば本件職場大会の実施を見合わせた可能性があると主張し、あたかも本件職場大会が実施された責任の一端が厚生省が右団体交渉を行わなかったことにあるかのごとき主張をするが、本件職場大会が国公法九八条二項に違反する違法な争議行為に該当するものであることは前記のとおりであって、その実施に関与した者が責任を負わなければならないことは自明の理であり、厚生省が右団体交渉を行わなかったことは本件職場大会の開催を正当化する理由とはなり得ない。したがって、本件職場大会以前に右団体交渉が行われなかったことは、本件各懲戒処分を社会観念上著しく妥当性を欠くものとするものではない。

2  以上の各事実に基づき、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかを検討する。

(一) 原告A外八名に対する各懲戒処分について

本件職場大会が違法な争議行為であり、その規模及び態様は、前記(第二、一、5)のとおり、全国の国立病院等の支部において、組合員約二万五〇〇〇名が参加して、勤務時間に約二九分以内食い込む方針で職場大会を開催し、そのうち、少なくとも二九三四名の職員が、当日勤務義務を有するにもかかわらず、最大で二七分間勤務に就かず、集団的に職場を離脱したというものであって、規模が大きく、また、午前八時三〇分の勤務開始時刻から最大で二七分間勤務に就かなかったというのであるから、国立病院及び国立診療所での診療を必要とする国民に何らの支障が生じなかったものとは認めることができず、その間国民の健康にかかわる医療に従事する職責を果たさなかったことを軽視することはできないこと、本件職場大会が当局の数度にわたる警告を無視してあえて行われたものであること、原告A外八名が本件職場大会への単純参加者ではなく、全医労の副委員長、中央執行委員、中央闘争委員として本件職場大会の企画、立案や組合員への参加を呼び掛けるなどの行為を行うなど、本件職場大会の実施に積極的に関与し、指導的な役割を果たしたものであるから、その責任を追及されてもやむを得ないものであること、戒告処分が国公法の定める懲戒処分の中で最も軽い処分であることを考えると、本件職場大会当時、昭和四〇年人事院判定がいまだ完全には実行されず、長年にわたって延引していた状況にあり、本件職場大会実施の目的、動機自体は無理からぬ点がある相当なものであること、本件職場大会が比較的短時間で終了し、暴力的手段を伴うものではなかったこと等の原告らに有利な事実を勘案しても、懲戒権者である被告処分者らが、原告A外八名を戒告処分としたことが、社会観念上著しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したものと評価することはできない。

(二) 原告J、同K及び同Lに対する各懲戒処分について

本件職場大会が違法な争議行為であり、原告Jが本件職場大会当時所属していた国立療養所南福岡病院では、平成三年一一月一三日午前八時一五分から午前八時五三分まで、勤務時間内に二三分以内食い込んで、南福岡病院職員昇降棟前において、本件職場大会が実施され、全医労南福岡支部の組合員二一三名が参加し、そのうち少なくとも九名が午前八時三〇分から午前八時五三分まで一斉にその職務を放棄したものであり、原告Kが本件職場大会当時所属していた国立療養所沖縄病院では、同日午前八時一五分ころから午前八時四五分ころまで、勤務時間内に一五分間食い込んで、沖縄病院玄関前において本件職場大会が実施され、全医労沖縄病院支部の組合員のうち少なくとも六〇名が参加し、そのうち少なくとも四名が午前八時三〇分から午前八時四五分まで一斉にその職務を放棄したものであり、原告Lが本件職場大会当時所属していた国立療養所西多賀病院では、同日午前八時一五分から午前八時四九分まで、勤務時間内に一九分ないし二三分食い込んで、西多賀病院外来玄関前において、本件職場大会が実施され、全医労西多賀支部の組合員約六四名が参加し、そのうち少なくとも四九名が午前八時三〇分から午前八時四九分ないし五三分まで一斉にその職場を放棄したものであって、当該地域における中心的な医療機関に勤務する職員としての職責を果たさず、当該地域に住む国民が適時に適切な診療を受ける機会を侵害する危険を作出したといわざるを得ないこと、本件職場大会が当局の数度にわたる警告を無視してあえて行われたものであること、原告らが本件職場大会への単純参加者ではなく、全医労の各支部長として組合員への参加を呼び掛けるなどの行為を行うなど、本件職場大会の実施に積極的に関与し、指導的な役割を果たしたものであるから、その責任を追及されてもやむを得ない面があること、戒告処分が国公法の定める懲戒処分の中で最も軽い処分であることを考えると、本件職場大会当時、昭和四〇年人事院判定がいまだ完全には実行されず、長年にわたって延引していた状況にあり、本件職場大会実施の目的、動機自体は無理からぬ点がある相当なものであったこと、原告J、同K及び同Lの各職場における職務放棄の態様、時間は前記のとおりであって、比較的短時間で終了し、暴力的手段を伴うものではなかったこと、本件各懲戒処分に至るまで職場大会を理由としてされた処分の内容が前記のとおりであったこと等の原告J、同K及び同Lに有利な事実を勘案しても、懲戒権者である被告処分者らが右原告三名を戒告処分としたことが、社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を濫用したものということはできない。

八  本件各裁決が判断を遺脱したものか否か(争点7)について

行政不服審査法四一条一項は裁決には理由を付すべき旨を規定している。これは、裁決における判断を慎重ならしめ、その公正を保障するとともに裁決の対象となった処分についての審査請求人の不服事由に対する審査機関の判断を明確にするためであるが、審査機関が審査請求人の不服の事由の一部について判断していなかったとしても、そのことから直ちに当該裁決が違法となるものではなく、審査機関が理由中で判断を示さなかった事項が裁決に影響を及ぼすべき重要な事項であって初めてその事項について審査機関が判断を示さなかったことが当該裁決の違法原因となると解するのが相当である。

そこで、本件各裁決についてこれをみるに、原告らは、本件職場大会は看護婦増員抜本策の追求、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等の要求を掲げて行われたものであるが、これらの目的・要求課題は国立病院等で働く労働者にとっては昭和四〇年人事院判定以来四半世紀に及ぶ切実な要求課題であり、その経過があって本件職場大会に至ったものであることを本件各裁決が判断していないと主張する。

確かに、丙第一号証ないし第四号証によれば、被告人事院は、原告A外八名に係る不利益処分審査請求事実に関する判定である人事院指令平成六年一三-一三の「理由」の第1、3、(1)、同(3)、同第2、1、同第3、3において、原告Jに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三-一四、原告Kに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三-一五、原告Lに係る不利益処分審査請求事案に関する判定である人事院指令平成六年一三-一六の「理由」第1、2、(1)、ア、同第2、1、同第3、3において、それぞれ本件職場大会の目的が、日本医労連の掲げた国立医療機関の統廃合・移譲反対及び看護婦等の人材確保の促進に関する法律の制定等の要求、国立医療機関の再編成に係る「全体計画」の阻止、完全週休二日制及び看護婦をはじめとする全職種の大幅増員等の要求並びに全医労独自の要求として掲げられた看護婦増員抜本策の追求、公的医療機関並みの人員配置、公務一体による完全週休二日制の早期実現、賃金差額の早期確定と支給、賃金職員の定員化と処遇改善等であったことを認定していることが認められるが、原告らの主張するように、本件職場大会の要求項目であった看護婦増員抜本策の追求、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等が国立病院・国立療養所で働く労働者にとって昭和四〇年人事院判定以来四半世紀に及ぶ切実な要求課題であったこと及びその経過があって本件職場大会に至ったものであったことについては認定していない。

ところで、丙第一号証ないし第四号証によれば、原告らは、本件各裁決に係る不服審査請求において、本件各懲戒処分が違法であることを基礎づける根拠として、①本件各懲戒処分の対象となった懲戒事由に係る原告らの各行為は全医労の本部執行部等が行ったものであり、各請求者が個人として行ったものではないこと、②国公法九八条二項は違憲であり、仮に違憲ではないとしても国公法九八条二項が禁止している争議行為は国民生活に重大な支障をもたらすような違法性の強い争議行為だけであるが、本件職場大会はそれに該当しないこと、③本件職場大会は、国家公務員に争議行為を禁止したことの代償措置が本来の機能を果たしていないため、その正常な運用を要求し、相当な範囲を逸脱しない手段、態様で行ったものであり、憲法二八条で保障された争議行為であること、④本件各懲戒処分は全医労の団結権を侵害することを企図して行われたものであり、懲戒権の濫用によるものであることを主張したことが認められるが、原告らが、本争点において主張している本件職場大会の要求項目であった看護婦増員抜本策の追求、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等が国立病院・国立療養所で働く労働者にとって昭和四〇年人事院判定以来四半世紀に及ぶ切実な要求課題であり、その経過があって本件職場大会に至ったものであったことは、右③に関連するものである。そして、丙第一号証から第四号証までによれば、本件各裁決は、右③について、本件職場大会において昭和四〇年人事院判定にかかる要求項目はその一部に過ぎなかったこと、行政措置制度における判定の内容は勧告的意見の表明であって、関係者の協力によってその内容は推進されるべきものであり、昭和四〇年人事院判定も同様の性質を有すること及び昭和四〇年人事院判定の内容については改善の方向で進んでいたこと等から、原告らが満足する域に達していなかったとしても代償措置制度が本来の機能を果たしていなかったとの理由で本件争議行為を正当化することはできないとの理由を示した上、右③を根拠として本件各懲戒処分が違法となることはない旨の判断をしたことが認められ、これによれば、本件職場大会の要求項目であった看護婦増員抜本策の追求、看護婦増員年次計画施設長確認の実行等は国立病院・国立療養所で働く労働者にとって昭和四〇年人事院判定以来四半世紀に及ぶ切実な要求課題であり、その経過があって本件職場大会に至ったものであったかどうかについて判断したとしても、それによって右③についての被告人事院の判断が左右されないことは明らかであり、被告人事院が右の点について判断を示さなかったことが裁決に影響を及ぼすべき重要な事項についての判断の遺脱に当たるということはできない。

したがって、本件各裁決に判断遺脱の違法はなく、原告らのこの点に関する主張は理由がない。

九  本件各裁決が昭和四〇年人事院判定等について判断を誤ったか否か(争点8)について

原告らは、前記(第三、八、1)のとおり、本件各裁決が、昭和四〇年人事院判定に関連して、人事院判定についての判断を誤ったものである旨主張するが、行政処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては処分自体の違法を理由とすることはできず(行政事件訴訟法一〇条二項)、裁決取消の訴えにおいてその違法事由として主張することができるのは、裁決固有の瑕疵、すなわち、実体的内容に関する事由以外の主体、手続、形式に関する瑕疵をいうものと解されるところ、原告らのこの点の主張は、結局のところ、実体的内容に関する判断を誤ったとの主張であって、裁決固有の違法事由には当たらない。

したがって、原告のこの点に関する主張は失当である。

第五  結論

以上のとおり、本件各懲戒処分及び本件各裁決にはいずれも違法の点はなく、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙世三郎 裁判官鈴木正紀 裁判官植田智彦)

別表・別紙<省略>

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